ガンドラック氏: 永遠に追加緩和か、景気後退か

中国恒大集団のニュースと交互になっているが、引き続きValuetainmentによる債券投資家ジェフリー・ガンドラック氏のインタビューである。

日本を見てみろ

日本やアメリカなどの先進国政府は多額の負債を抱えている。その負債はコロナ禍で更に膨張した。これまではいくら緩和しても何も問題が起こらないかのように見えたが、アメリカで3回行われた現金給付によってアメリカの物価はついに上がり始めた。

債券の専門家であるガンドラック氏はこのことについて次のように述べている。

人々は言う。「日本を見てみろ。負債を心配する必要はない。日本のGDP比負債はアメリカより多い。」金利がゼロだからだ。政治家も最近ようやくこの困難な数学を理解したようだ。ゼロかける100兆は…ゼロだ。

現代マネタリー理論の論者に聞かれたことがある。「GDP比負債を気にする必要があるのか? インフレが起こらない限り、この考え方の何が悪いんだ?」わたしは答えた。「…インフレが起こっている。」

「インフレが起こらない限り」の決め台詞もアメリカではもう駄目になってしまったようだ。しかし何故アメリカでは物価は上昇したのだろうか? 量的緩和で紙幣をいくら印刷しても今のところ日本でインフレが起きていないのは事実である。では日本とアメリカでは何が違ったのか?

物価上昇の理由

1つ目の理由は現金給付である。量的緩和とは印刷した紙幣を使って中央銀行が銀行などから債券を買い上げる政策だが、それは中央銀行と金融業者のやり取りであり、その時点では消費者の懐とは関係のない取引である。銀行の持つ現金は増える(マネタリーベースが増加する)が、消費者や一般企業の預金(マネーサプライ)に影響はない。

しかしアメリカでは日本の3倍以上の規模の現金給付が行われたことで、消費者の銀行口座に直接資金が注入され、消費者が使えるお金(マネーサプライ)が急増してしまったのである。アメリカのマネーサプライのチャートは次のようになっている。

コロナ後に急増していることが分かる。これがインフレを引き起こした原因である。

そしてもう1つの理由は、アメリカ人に貯金がないことである。

アメリカ人は日本人より貧しいのだろうか? 全体で見ればそうではないかもしれない。しかし平均的にそこそこの貯金のある日本人とは違い、貧富の差のおかげで大多数のアメリカ人には貯金がないのである。

アメリカではリボ払いによってクレジットカードの支払い残高を残す設定をデフォルトにしている人も少なくない。後で払えば良いのだから、何故今払わなければならないのかということである。日本人には信じられないがこういうアメリカ人が本当に実在する。彼らは日本の位置を聞かれてインドを指差す人々である。

だから貯金が10万円もないアメリカ人もかなり多い。むしろ支払い残高を含めるとマイナスになっているかもしれない。

ある程度貯金がある人々が10万円を渡されても、まったく使わないか、ある程度は残すだろう。しかしこうした人々が10万円を渡されたらかなりの部分使ってしまうに決まっている。そしてインフレが起こったのである。

使われてしまった紙幣印刷

結局、当たり前の話なのだが、紙幣印刷がインフレを引き起こすかどうかは、刷られた紙幣が使われるかどうかにかかっている。

貯金がある間は紙幣が配られてもそれほどは使われない。しかし問題は、ガンドラック氏によれば量的緩和政策が経済の低成長を引き起こすということである。

量的緩和で印刷された紙幣は最初のうちは使われず、インフレも起こらないが経済成長率はじりじりと下がってゆく。結果として経済成長が高かった時代に蓄えた貯金も徐々に減ってくる。そうして貯金がなくなった時に臨界点は訪れ、物価が高騰するのである。

貧富の差と3倍の現金給付のお陰でアメリカはついにそのターニングポイントに到達してしまったようである。現金給付がなければ金がないターニングポイントである。コロナでそうなったわけではない。コロナが最後の後押しをしただけである。

ガンドラック氏は言う。

永遠に緩和し続けなければ、アメリカ経済は景気後退に陥るだろう。

緩和を止めるどころか、緩和を減らすことさえ景気後退なしには出来ないだろう。

その兆候は既に出ている。現金給付が今年3月を最後に途絶えると、アメリカでは既に景気減速の兆しが見られている。

現金給付がなくなったので、デフレと低成長へ逆戻りである。そしてそこに中国恒大集団の問題がのしかかってくる。

恐らくはこのまま進めばアメリカ経済は来年には景気後退に陥るだろう。来年11月には中間選挙があるので、バイデン政権は追加緩和なしで景気後退とデフレよりは、追加緩和の道を選ぶだろう。

しかしその時がアメリカにおける本物の物価高騰の始まりとなる。これまで一時的な上昇に留まった金属や農作物などのコモディティ市場も、もはや留まるところを知らない上昇トレンドに乗ることになる。スコット・マイナード氏の言う「金価格5倍」の世界である。

しかしそれよりも恒大集団と中国の不動産バブルの問題に取り掛かるのが先だろう。それと同時並行でアメリカの短期デフレ相場が続く。

短期デフレ相場に対処するための以下のポジションは、投資家が恒大集団の問題を対処するために役立ってくれるはずである。ドル円と米国債である。こちらの記事も参考にしてもらいたい。