ドラッケンミラー氏: 株価が上昇したら空売りを再開する

引き続きジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを運用したことで有名なスタンレー・ドラッケンミラー氏のSohn Conferenceにおけるインタビューである。

今回は現在の下落相場の先行きについて語っている箇所である。

空売り一時休止の理由

ここで報じた通り、ドラッケンミラー氏は年始からの米国株下落相場を空売りして大儲けした。

そして今は一旦休止で空売りを休んでいるという。

しかしドラッケンミラー氏は下落相場が終わったと思っているわけではない。ただ百戦錬磨の投資家である彼は、下落相場における短中期的な反発が強烈なものになりうることを知っている。

司会者に「デッド・キャット・バウンス(死んだ猫でも高所から落とせば一度は跳ねることの例え)を警戒しているのか?」と聞かれ、彼は次のように答えている。

反発はそれほどデッドではないかもしれない。それが2、3ヶ月前にしていたような大量の空売りを行なっていない理由だ。

大きな下落相場には大きな反発があることが多い。

この発言だけ聞けば、ドラッケンミラー氏は株価がこれから大きく反発することを予想しているように聞こえる。

そういうことが有り得ると彼が思っているのは確かなのだが、しかしより深く彼の言っていることを考えてみれば、彼の意図がもっと深いものであることが分かる。

ドラッケンミラー氏の投資哲学

そこにはドラッケンミラー氏独自の投資哲学がある。彼はまず、空売りを始めた年始の状況に比べ、現在の状況が彼にとって空売りのために魅力的ではないと考えているのである。

まず第一に、株価が20%以上下がっていることが原因だろう。米国株は次のように推移している。

下落がここで止まらないならば、それでも空売りを止める理由にはならないかもしれない。だが筆者やドラッケンミラー氏が空売りを始めた年始の株価、大天井だった当時の水準に比べ、空売り投資家にとって魅力が下がっていることは事実だろう。

また、彼は次のようにも述べている。

金利に中央銀行がどう対応するかを見たい。現在の状況が企業の収益にどう影響するかを見たい。

あとは勿論インフレの問題だ。中央銀行の言うようにコアインフレに含まれない食品とエネルギーのインフレは見逃せるのか?

同じことを労働組合に言ってみると良い。彼らが「OK、3%の賃上げで良い。コアCPIは4%しか上がっていないし、生活費が16%上がっていることは気にしていないよ」と言うとでも思っているのか。

だがどうも彼の言い回しは、インフレがここから更に深刻になることを予想しているように聞こえる。そして下落相場がまだ終わらないことを確信してもいる。

精神的トレーディング

彼の言っていることを字面だけ追っていると、どうも釈然としない。スタグフレーションを懸念しながら空売りを止めている。しかし前回の記事で取り上げた内容を考えるとどうだろうか。

この記事で彼は、最高の投資機会に大きく賭け、そうではない時には大きく賭けないことの重要性を語っていた。

生粋の逆張り投資家である彼にとって、株価が連日上昇し、大天井にあった年始の状況、多くの投資家が金融引き締めを舐めきっていた年始の状況は、空売りするのに絶好のタイミングだっただろう。

筆者も同じ時期に空売りを表明しているが、コモディティの買いと組み合わせることを前提としていた筆者よりも、ドラッケンミラー氏は株価の下落自体を確信していたかもしれない。

筆者はこの40年来の緩和バブル崩壊を天井から大底まで付き合うつもりである。短期トレードをするつもりはあまりない。

だが下落相場は長い。そしてドラッケンミラー氏は、下落相場の中でも一番美味しいところだけに大きく賭けるトレーダーなのだろう。

彼は次のように続け、空売りを成功させるために大いに働いたことを述べている。

精神的に少し休んでいるのだ。頭をクリアにしたい。ここ4、5ヶ月は大いに働いた。相場に戻るのは1週間後かもしれないし、3週間後かもしれないし、3ヶ月後かもしれないが、いずれにせよわたしは急いでいない。

わたしはマラソンを走っているのだから、16マイル地点で全力疾走したりはしない。

「マラソン」とは当然ながらこの長い下落相場のことを言っているのである。彼はこう続ける。

株価が中期的にここから15%から20%上昇したならば、もう一度参戦するだろう。

資産バブル崩壊が6ヶ月で収まった前例はないからだ。まだまだ伐採されなければならない木がある。

下落相場は長いものである。リーマンショックにおける下落相場が1年半続いたということを再確認したい。

ドラッケンミラー氏は、この長い下落相場の美味しいところを狙って利益を得る。筆者は上から下まで全部に付き合うだろう。

結論

話を聞く限りでは、彼が空売りに再び参入する条件は、株価がもう一度上昇するか、金融政策やインフレの状況がより明らかに悪化した場合ということだろう。

どちらが正解となるかは分からない。結局は彼の休憩が奏功して、このタイミングで利益確定した彼は反発した株価を再び空売りし、1回の下落相場で2度利益を上げるかもしれない。

あるいは株価は対して反発せず、筆者のように短期トレードをしなかった方が良かったという結果になるのかもしれない。

だが結局それは問題ではないのである。筆者にとってもドラッケンミラー氏にとっても問題ではない。投資家は自分の予想できることを予想し、それぞれ自分に見合った利益を持ち帰る。

だがドラッケンミラー氏の精神的なトレーディングスタイルは面白いと思う。下落相場のすべてには付いて行かず、自分の勘が100%イエスと言う時にだけ大量の資金を投下するのである。

その野性的なトレーディングスタイルは師匠のジョージ・ソロス氏に似ている。やはり弟子は師に似るのだろう。