ジョージ・ソロス氏が中国の不動産バブル崩壊を説明する

著名ファンドマネージャーのジョージ・ソロス氏がニューヨークのイベントで中国の不動産バブルについて話したようである。Bloomberg(原文英語)が伝えている。

ソロス氏と言えば、2016年1月にダボスで「中国経済のハードランディングは実質的に不可避」と述べて中国政府を激怒させていたが、気にも留めていないのだろう。

利害関係に縛られた政治家や企業家とは違い、市場だけを相手にすればいい投資家は言論の自由を謳歌している。ソロス氏の議論を順に見てゆこう。

中国経済の信用バブル

先ず理解しておきたいのは、中国経済のバブルは信用バブルであるということである。過剰な融資が不動産価格の高騰を生み、不動産価格の高騰が更なる融資を呼ぶのである。ソロス氏は次のように述べている。

中国経済の現状は2007年から2008年の金融危機においてアメリカで起こったことに恐ろしいほど似ている。両方の状況において、バブルは信用創造によって過熱した。

サブプライムローン危機とは、いわゆるリーマンショックの引き金となったアメリカの不動産バブルである。

当時のアメリカでは、焦げ付きの可能性の高い不動産ローンが束にされて証券化され、纏め売りされていた。ただの纏め売りならばまだ良かったのかもしれないが、元々高リスクのはずの貸し付けが纏められてリスク分散されたことで、格付け会社がこれらの証券に高格付けを与えてしまった。

結果、見かけの低リスクに対して高い金利を好感した投資家の資金が殺到したために市場は資金で溢れ、信用の低い債務者でも住宅ローンが借りられるようになったため、アメリカの不動産市場にバブルを引き起こしたのである。

中国では、この証券化されたローンの役割を理財商品という金融商品が担っている。理財商品とは中国で販売されているファンドのようなものであり、一般の投資家などから集められた資金が地方政府による不動産投資などに用いられている。地方政府は現地の経済成長を誇張するために無理な不動産投資を行っているのである。これが中国の不動産バブルの正体である。

こうした理財商品の利回りは高いが、投資が失敗した場合救済がなされることもあり、投資家の需要が本来以上に集まっていることもアメリカのサブプライムローンと同様である。

バブル末期にある中国の不動産市場

さて、アメリカのサブプライムローン危機に似た中国の不動産バブルだが、段階としてはバブル崩壊の直前にあたるようである。つまり、流入する資金が不動産価格の高騰に使われているというよりは、これまでの損失の穴埋めに使われているということである。ソロス氏はこう語る。

銀行が行っている信用創造のほとんどは、不良債権や赤字企業の延命のために使われている。

このようにして問題は先延ばしにされてきた。今後も1-2年ほど先延ばしに出来るかもしれないが、しかし信用バブルは恐ろしいスピードで成長し続けている。

後から投資した人の資金が先に投資した人の資金の損失穴埋めに使われているのだから、これはねずみ講である。そうして債務の総額も急激に増えてゆくのである。

バブルはいつ崩壊するのか?

しかしながら、ソロス氏は中国の不動産バブルの崩壊はまだ先であると見ている。

中国の不動産バブルは、2005年から2006年にかけての米国のように、もう少しの間自分自身に資金を供給し続けられるかもしれない。

ターニングポイントは皆が思うより遅れて来る可能性がある。被害は遅れて現れるものだ。

「自分自身に資金を供給し続ける」というのは、先に述べたねずみ講の仕組みのことだろうと思う。バブルの天井を言い当てるのは、プロでも難しいものである。しかし状況をよく観察することで、大体の期間を予想することは可能である。

次第に窒息する不動産バブル

不動産市場に流入する資金は着実に減少している。上海などの都市部では、高騰する家賃に対し、上がらない賃金に市民は困窮している。これは労働者の賃金が住宅バブルに喰われているのであり、しかし消費者の資金が不動産市場に吸い上げられれば吸い上げられるほど、内需は縮小し賃金は低下、不動産市場に流入する資金は減少することになる。

また、中国株のバブルは2015年に崩壊した。以下は上海A株指数(国内投資家向け市場)のチャートである。

2016-4-21-shanghai-class-a-middle-term-chart

中国において株式市場のプレゼンスは大きくないとはいえ、一定数の投資家が資金を失った事実は不動産バブルにとってもマイナスだろう。一方で実体経済も着実に減速している。不動産バブルに流入する資金は、投資需要と住宅の実需の二通りから来ているが、そのどちらについても外堀は埋まってきているのである。

株式市場のバブルは崩壊したが、不動産バブルはこれからである。深圳の住宅価格は1年で62%上昇した。アメリカでは株価よりも不動産の方が先に下落したが、中国は逆であり、この点ではやはり日本のバブル崩壊に似ている。日本では株よりも不動産の方が2年遅かった。

外堀は次第に埋まる。ソロス氏の言う通り、中国の不動産バブル崩壊は2017年前後だろうと思う。問題はそれが中国の実体経済にどう影響し、それが世界経済にどう影響するかである。ソロス氏は中国発の世界恐慌を予想している。興味のある読者は次の記事も読んでみてもらいたい。