マイナード氏、国債と投資適格債とジャンク債の違いを語る

引き続き、21日に亡くなったGuggenheim Partnersのスコット・マイナード氏の自社ポッドキャストにおける最後のインタビューである。今回は2023年の債券投資について語った部分を紹介したい。

様々な債券

アメリカのインフレ率が急低下する中、Fed(連邦準備制度)は利上げを強行する姿勢を崩していないが、マイナード氏は2023年の利下げを予想している。

金利低下は債券価格上昇を意味するので、これは債券にとってはプラスである。

だが債券と言っても色々ある。理論上無リスクと考えられている国債(政府が発行)だけでも短期のものから30年物まであり、国債の他には社債(企業が発行)があるが、社債にも比較的安全なもの(投資適格債)から、倒産のリスクを考えなければならないもの(ジャンク債)まで様々である。

マイナード氏は今回、米国市場に存在するこの様々な債券を比較してそれぞれの2023年の相場動向を予想している。

クレジット・スプレッド

債券を比較する上で考えなければならないのがクレジット・スプレッドである。

スプレッドとは金利差のことで、金利はまず一番安全な国債がもっとも低いが、政府よりも信用度の低い一般企業の発行する社債は国債よりリスクが高いので、国債以上の金利を乗せなければ売れない。

この金利の差のことをスプレッドと言うのだが、社債にも色々あり、比較的安全な投資適格債の金利は倒産リスクのあるジャンク債の金利よりも低い。

それぞれの債券が2023年にどうなるかだが、マイナード氏は次のように語っている。

景気後退になるなら、スプレッドは開くだろう。

スプレッドが開くとは、金利差が拡大するということである。例えば国債の金利が4%、社債の金利が6%だった時に、社債の金利が8%になる。あるいは国債の金利が1%、社債の金利が4%になってもスプレッドは3%に開いたことになる。

金利の上昇は債券価格の下落を意味するので、スプレッドの拡大は国債の価格を基準にすれば社債の価格が下落するということである。両方の価格が上昇するにしても、上昇幅は国債のほうが大きくなる。

だがマイナード氏は次のようにも述べている。

投資適格債のスプレッド拡大は恐らく国債の金利が下がることによって打ち消されるだろう。

社債の金利は次のように計算できる。

  • 社債金利 = 国債金利 + スプレッド

だからスプレッドが開いても、国債の金利が下がればそれは帳消しになる。金利が上がらないということは、価格が下がらないということである。マイナード氏は次のように続ける。

だから債券の価格の変化ではなく金利だけを取りたい人々にとっても、投資適格債はそれほど大きな評価損を計上しないだろう。

米国債のようにトータルリターン(訳注:利息と評価益の両方)は狙えないだろうが、スプレッドが正常化する時には結局すべて返ってくる。

投資適格債は恐らく良い投資対象になるだろう。スプレッド拡大リスクは金利低下で打ち消されるので、下落リスクも非常に限られている。

そして保有期間のあいだ国債より高い金利を得られるということである。纏めると、価格の上昇だけを狙うのであれば国債だろうが、長期的には金利の大きい投資適格債も悪くないといったところだろうか。

ジャンク債

では社債ならば何でも良いのだろうか? マイナード氏は次のように述べる。

高利回り債に関しては別の話だ。

高利回り債、いわゆるジャンク債とは、倒産が十分に有り得る代わりに利回りが他の社債よりも高い債券のことである。

金利上昇による景気後退で一番の犠牲になるのはゾンビ企業である。彼らは政府による人工的なゼロ金利を前提に自転車操業を続けてきた、本来ならば収益を生まずにとっくに退場している企業たちなので、彼らが退場するのは良いことだが、高利回り債にはそういう企業が含まれる。

マイナード氏は次のように続ける。

高利回り債のスプレッドは拡大の余地が非常に大きいように見える。拡大幅は国債金利の下落よりも大きくなる。だからわれわれは高利回り債をアンダーウェイトしている。

景気後退で投資適格債のスプレッドは0.5%から0.75%ほど拡大するだろうが、高利回り債のスプレッドは恐らく4%ほど拡大すると予想している。

だから高利回り債のリスク・リワードは投資家にとって明らかに好ましくない。

現在、国債の金利はほぼ4%だが、米国債がすべての期間でゼロ金利になったことはないので、スプレッドが4%拡大すれば、それは確実に国債金利の低下分を上回るだろう。

結論

ということで、短期的な値上がりを重視するなら国債、値上がりを捨てても良いならば投資適格債、そしてジャンク債は避けるべしということらしい。

筆者は国債を買っているが、国債にも色々あるということを言っておきたい。国債の金利は現在以下のようになっている。

  • 2年物国債: 4.31%
  • 5年物国債: 3.86%
  • 10年物国債: 3.75%
  • 30年物国債: 3.82%

通常、借金は長く貸す方がリスクが高いので、期間が長いほうが金利が高くなる傾向があるが、現在では長短の金利差が逆転している。

この長短金利差の逆転は、2022年において筆者に大きな利益をもたらしてくれた予想の1つである。筆者はこの状況を2021年9月に予想していた。当時の記事には次のように書いてある。

テーパリングが強行され、利上げが行われる場合、アメリカ経済は高い確率でそれに耐えられない。短期金利が利上げに連動して上がる一方で、長期金利はそれほど上がらないか、むしろ下がってゆくだろう。

恐らく1980年と同様の長短金利差逆転が起きると筆者は推測している。

それで短期金利が長期金利よりも高くなったが、今後のアメリカ経済の見通しはマイナード氏が次のように述べていた通りである。

2023年後半にかけての何処かのタイミングで、Fedはインフレが自分の予想よりも早く減速していることに気付くことになる。そして利下げに傾いてゆく。

そうなれば今度は短期金利の下落速度が長期金利の下落速度を上回る。マイナード氏が金利の低下速度について社債より国債と言うならば、筆者は長期債より短期債と言っておこう。勿論、短期債の価格変動は小さいのでレバレッジを掛ける必要があるのだが。

ということで、今回はマイナード氏のクレジット・スプレッドの話に、筆者の長短金利差の話を付け加えてみた。債券投資の初歩なのだが、日本には債券の専門家が少ないので、あまり他のメディアで見ない話になったのではないか。

一方で、ドル円がどうなるかということはまったく別の話なので、ドル円については以下の記事を参考にしてもらいたい。