ドラッケンミラー氏: リーマンショックより酷くなる可能性は否定できない

引き続き、ジョージ・ソロス氏のクォンタムファンドを運用したことで知られるスタンレー・ドラッケンミラー氏のSohn Conferenceにおけるインタビューである。

ドラッケンミラー氏のインフレ率の推移予想

前回の記事ではドラッケンミラー氏がハードランディングまであと半年ほどだと予想している部分を取り上げた。

だが今回はこれまでの経済危機とは違い、インフレが起こっているという問題がある。

ハードランディングが起こった時、インフレ率は下がっているのか? 下がっていれば、普通の不況だ。下がっていなければ、不景気と物価高が両方来るスタグフレーションになる。

ドラッケンミラー氏は今後のインフレ率の推移について次のように語っている。

難しいのはマネーサプライをどう見るかだ。

エド・ハイマン氏はマネーサプライが史上最速の速さで縮小していることを指摘した。

だが話はそれほど簡単じゃない。マネーサプライは数年前と比べると30%後半から40%ほど拡大している。だから積み上がっているお金の量はそれでも極めて多いということだ。

マネーサプライとは市中に存在している現金や預金の総額である。コロナ後に現金給付によってばら撒かれた多額のお金は今どうなっているのか? 実質マネーサプライのグラフは次のようになっている。

Fed(連邦準備制度)の金融引き締めによってマネーサプライは急減している。だが絶対水準で言えばそれでもコロナ前よりもかなり多いのである。

そもそもコロナ後にマネーサプライが酷いことになったのがグラフから分かるだろう。それを押し上げたのは現金給付である。これでインフレにならないと言った馬鹿は今どうしているのか。ジェフリー・ガンドラック氏はそれくらいは12才児でも分かると述べていた。

ドラッケンミラー氏のインフレ率の推移予想

マネーサプライが急減しながらもまだ積み上がっていることは、恐らくアメリカに景気後退がまだ来ていないこと、特に消費がいまだに強いことの原因だろう。

以下の記事でGDPの内訳を分析しているが、それがなかったらアメリカ経済は既に景気後退しているはずだ。

しかしそれでもマネーサプライは急減速している。

ドラッケンミラー氏は年末年始頃にアメリカ経済はハードランディングになると予想した。

ではその頃にはインフレ率はどうなっているのか? 彼は以上のことをすべて考慮に入れた上で次のように予想する。

インフレ率は今後6ヶ月から9ヶ月で恐らく3%から3.5%辺りまで下がるだろう。

現在アメリカのインフレ率は5.0%である。

インフレ率の長期見通し

だが問題はその後である。ハードランディングに陥った時に中央銀行がどうするのかによってその後のシナリオが変わってくる。

ドラッケンミラー氏は次のように述べている。

そこからが難しい。Fedがどうするか予想しなければならないからだ。

Fedが緩和に逆戻りすればインフレ第2波になり、引き締めを続ければ経済恐慌になる。

前回の記事でも言っていたが、ドラッケンミラー氏は基本的にインフレ第2波をメインシナリオとしている。理由は歴史上緩和をやり過ぎて問題を引き起こしてきたFedの経歴である。彼は次のように述べる。

わたしは2000年や2021年から2022年前半までにおけるFedの対応に本当に驚いている。そして来年が大統領選挙の年であることを考慮すべきだ。

ドラッケンミラー氏はバイデン政権がパウエル議長に圧力を掛けることを想定しているのだろうか。

また、ドラッケンミラー氏は1970年代におけるFedの議長、ポール・ボルカー氏の前任者で緩和的な政策でインフレを悪化させたアーサー・バーンズ氏を持ち出して次のように述べている。

インフレ率が3%か3.5%まで下がった時に彼らがアーサー・バーンズ氏のように対応するならば、インフレが下がった時に即座に反応せず龍を殺しきらないならば、今後数年はインフレーションか、恐らくはスタグフレーションになるということを強調したい。

だが一方で、次のように現在の世界経済には巨大なデフレ圧力も存在することにも言及している。

あるいは現在の巨大な資産バブルが弾けた場合、もう経済はどうにもならないかもしれない。

結局はFedが物価高騰か経済恐慌かどちらを選ぶのかという問題に帰着する。だからドラッケンミラー氏は笑いながら次のように言っている。

先週社内で会議があったのだが、そこでわたしはこう言った。インフレ率は今後3年8%で推移するとも言えるし、デフレになるとも言える。

結論

だがインフレ第2波でも経済恐慌でも経済は酷いことになるだろう。それがインフレというパンドラの箱を開けてしまった紙幣ばら撒きの末路である。

それはどれくらい酷い結果になるのか。ドラッケンミラー氏は次のように続けている。

これは2007年や2008年とは違うということが繰り返し言われている。

だがそう言っている人々が2007年に危機を予想したという話を聞いたことがない。

わたしは2008年より悪い状況を予想しているわけではない。明日のニュースでわたしがそう言ったという見出しを付けてほしくはない。

だがこれだけの資産バブルの後であること、ゼロ金利のあとに史上もっとも急激な金利の上昇があったことを考えると、本当に酷いことが起きる可能性を除外するのは本当にナイーブだと思う。

一体どうなるだろうか。だがドラッケンミラー氏を含め、あと1年以内だと言い始めた専門家が多いのである。