サマーズ氏: 金融引き締めが不動産市場にあまり効かない理由

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が、Bloombergのインタビューで金曜に発表されたアメリカの雇用統計と、アメリカ経済の見通しについて語っている。

9月米国雇用統計

金曜日に発表された雇用統計では、失業率の上昇トレンドが継続し、平均時給が減速した一方で、労働者の数は予想以上に増加した。

労働者数が増えた主な理由は移民による人口増加である。

この雇用統計についてサマーズ氏は次のようにコメントしている。

アメリカ経済はこれまでのところ正しい方向に向かっている。労働者数の数字が強かっただけでなく、直近2ヶ月分の数字の上方修正もされた。

労働者数の伸びは加速している。今のところ、これは良いニュースだ。経済は強いようだが賃金インフレはかなり制御されている。

サマーズ氏も筆者と同じようにこの雇用統計をデフレ寄りのものと解釈したようだ。労働者の増加(つまり労働の供給増)によって賃金(つまり労働の価格)が減速していることは、インフレ下落に寄与する動きである。

また、賃金インフレが減速している状況は、その数字だけ見れば株式市場にとってプラスである。移民流入によって労働者1人当たりの価格が下がることは企業に利益をもたらす。だからユニクロの柳井氏などは移民政策に賛成している。

中長期的には暗雲漂うアメリカ経済

一方で、賃金減速の理由はアメリカ経済が減速しかかっているからである。今のアメリカ経済には流入する移民を全員雇う体力がない。だから1人当たりの賃金が減速している。

サマーズ氏は次のように説明する。

中期的には、中央銀行が読み解かなければならない非常に複雑な状況がある。労働市場ではますます供給が足りなくなっている一方で、ストライキの問題やコモディティ価格の不透明さがある。

筆者が基本的にはデフレ方向で進むだろうと考えているアメリカ経済で、ほとんど唯一インフレ加速方向に寄与しているのが原油価格である。この原油価格は景気後退を織り込む最近の株安に乗じてやや下落したが、土曜日から始まったハマスによるイスラエル攻撃で月曜日にはどうなっているか分からない。

金融引き締めと住宅ローン

サマーズ氏もまた、アメリカ経済の減速を懸念している。彼は次のように述べている。

また、インフレ統計には直接は表れないが、金利が上がり住宅ローンが8%近くになれば、生活費が上がっていると人々は感じる。

一方で、良いのか悪いのかは分からないが、高金利が不動産市場に思ったほど効いていないという議論がある。これについてサマーズ氏は次のように述べている。

低い固定金利で住宅ローンを借りている人々は、家を売りたがらない。結果として住宅価格が上がる。家主は経済状況が良いと感じるだろう。

どういうことか。インフレと金利上昇の前に住宅ローンを借りて家を建てた人は、低かった頃の固定金利でローンを払っている。30年物の住宅ローン固定金利のチャートは次のようになっている。

彼らには3つ選択肢がある。今の家を売って高騰した住宅ローン金利で新たな家を建てるか、賃貸に移って高騰した家賃を払うか、今の家に住み続けて既に契約した低い固定金利を払い続けるかである。

彼らは家を売らないだろう。そうすると住宅市場では住宅が出回らず、価格には上昇圧力がかかる。ジェフリー・ガンドラック氏が以前指摘していた。

ガンドラック氏は、住宅ローン(モーゲージ)関連の債券はこの意味でお買い得だとも言っていた。家主は値上がりした住宅に住んでいるので、高金利でデフォルトすることはない。モーゲージ債は金利は高いがデフォルトリスクは少ないというのがガンドラック氏の理屈である。

結論

だが問題は、不動産市場や消費などに金利上昇が直ちに効かなかった一方で、銀行や中小企業など一部のセクターは既に十分以上のダメージを受けているということである。

そして金利を使ってインフレを抑えようと思えば、高金利が効きにくいならば、金利をより高く、より長く上げ続ける必要がある。

サマーズ氏は不気味なことを言っている。

恐らく今の世界では金利は経済を誘導するツールとして昔ほど効果的ではないのかもしれない。そしてそれは、経済を冷却しなければならない場合、金利はもっと激しく動かなければならなくなることを意味する。

サマーズ氏はやはり高金利を予想している。

スタンレー・ドラッケンミラー氏は次のように述べていた。

景気後退がまだ始まっていないという事実が、ハードランディングかソフトランディングかという確率を変えることはない。

むしろ、景気後退が来るまでにこれほど時間がかかってしまったために、政策金利はより高く上がることになり、インフレは経済に馴染むことになってしまった。それはハードランディングの確率を上げることはあっても、下げることはない。

どうなるだろうか。ハマスのイスラエル攻撃を受けての週明けの原油市場も気になるところである。