ガンドラック氏: 2%インフレ目標は完全に恣意的な数字

引き続き、Grantの会議におけるジェフリー・ガンドラック氏の講演の紹介である。今回は当たり前のように言われてきた2%のインフレ目標について語っている部分を取り上げる。

2%インフレ目標の謎

少し前まで、人々はインフレが良いものだということを信じていた。インフレと円安を目指すインフレ政策を行なう政治家が当たり前のように当選し、人々はインフレと円安を待ち望んだ。

そして実際にインフレと円安が起こった時、人々は怒り始めた。インフレは実際には物価が上昇するという意味だったからである。

彼らは辞書さえ持っていなかったのだろうか。この件に関して政治家は悪いのか? 彼らは正々堂々とインフレを引き起こすと言っていたではないか。完全にフェアである。流石の筆者も政治家を責められない。

しかし疑問は残る。何故政治家はインフレを望むのか、そして何故インフレ目標は常に2%なのか、ということである。

何故それは2%なのか。それに根拠はあるのか。ガンドラック氏は次のように言っている。

もちろんそれは恣意的な数字だ。デフレを心配しているというのが彼らの理屈だったように思う。

だが、状況をマクロ経済学的に考えてみよう。物価は需要と供給で決まる。デフレとは需要に対して供給が多過ぎること、インフレとは需要に対して供給が少なすぎることである。

つまり、簡単に言えばデフレとはものが溢れていること、インフレとはものが不足していることである。ものが溢れている状況(デフレ)は、ものが不足している状況(インフレ)よりも悪いのだろうか? 誰がそんな馬鹿げた話を言い出したのだろうか。それよりも謎なのは、何故人々がそんな話を信じたかである。

経済学的な説明

もう少し真面目な話をしよう。マクロ経済学的には、インフレもデフレも両方とも避けるべきである。経済のなかに需要があるのであれば、その需要分をきっちり生産することが一番効率が良いのであって、多すぎても少なすぎても経済学的には非効率である。

一応はまともなマクロ経済学者である日銀の植田総裁も、インフレ率はゼロであるのが一番効率的だと言っていた。

では何故2%ということが言われたのか? マクロ経済学の知識のある人間に対しては、もう少しまともな説明が与えられていた。ガンドラック氏は次のように言っている。

インフレ率の目標がゼロや0.5%なら、景気後退やコモディティ価格の下落など何らかの要因でデフレ圧力がかかったとき、インフレ率がマイナスになってしまう。それが彼らの理屈だった。

インフレ率がマイナスになって問題なのは、彼らの理屈では、金利による経済のコントロールが出来ないからである。金利はインフレ率よりも上か下かが問題なので、インフレ率がマイナスの状況で緩和を行なうためには、金利をそれよりも下にするしかない。

だが金利をマイナスにすると人々が預金しなくなるので、マイナス金利には限界がある。

そもそも政府が金利をコントロールしていることが現在のインフレの原因であるので、その理屈も実際には成り立たない。

だが政府が金利をコントロールするという前提を仮に認めたとしても、やはりその理屈は成り立たない。金利がゼロになっても緩和の手段は存在する。それはまさに、黒田前総裁による大規模緩和に反対した白川前総裁が以下の記事で指摘していたことである。

こう見ると黒田氏以外の日銀総裁は比較的まともなようにも見えてくるのだが、いずれにしてもやはりインフレ目標はゼロで差し支えなく、インフレ目標を2%にするマクロ経済学的理由は存在しない。

インフレ政策の本当の理由

だが政治的理由は存在する。だから政治家は常に2%目標を置き続けるのである。

インフレとは紙幣の価値が下落することである。そして紙幣を大量保有しているのは誰か? 国民である。だがそれだけではない。インフレによって変化するものがもう1つある。借金の実質的価値である。

仮にりんご1個の価値が1億円になれば、多くの人がそれを買えなくなる一方で、1億円の借金をしている人は逆にりんご1個分支払えば借金を完済できることになる。

ここにからくりがある。インフレは預金の価値を失墜させる一方で、借金の実質的価値を減らす。それが戦後に敗戦国ドイツが莫大な賠償金を支払った方法である。GDPの100%を超える政府債務のある国の政治家は、インフレによって国民の預金を犠牲に借金を帳消しにすることを考えている。

だが急に大幅なインフレを引き起こしては、国民の反発を招く。まさにそこに2%の理由がある。ガンドラック氏は次のように述べている。

2%はマイルドで段階的なドルの価値下落だ。

莫大な財政赤字を垂れ流し続けるためにはドルの価値下落が必要だが、年2%なら人々を驚かせない。だがいずれにせよこれは完全に恣意的な数字だ。

「マイルドなインフレは経済にとって良い」というマクロ経済学的に何の根拠もない出鱈目を信じている人は、「少額ずつ盗んでゆく強盗はウェルカムだ」と言っているに等しい。彼らは愉快な人々である。