ガンドラック氏、現金給付の次の緩和政策を語る

Double Line Capitalのジェフリー・ガンドラック氏がGrantの会議における講演で、来年予想されているアメリカの景気後退において政府の緩和政策がどうなるかを予想している。

2024年アメリカの景気後退

ガンドラック氏は来年のアメリカ経済の景気後退を予想している。ガンドラック氏によれば(筆者も同意しているが)、最近の失業率上昇は景気後退の前触れである。

もしそれが正しいとすれば、投資家にとっての問題はその景気後退にアメリカ政府とFed(連邦準備制度)がどう対応するかである。

ガンドラック氏はFedのパウエル議長がインフレ退治をやり切るということを疑っている。彼の予想では、パウエル氏はまず利上げをやり過ぎて景気後退を引き起こした後に、次はパウエル氏は緩和をやり過ぎてインフレ第2波を引き起こすことになる。

ガンドラック氏は次のように語っている。

2024年の第1四半期には、Fedの政策には問題が生じ、財政赤字は爆発的に増加することになる。

この見通し自体は、他の専門家も同じ意見を表明している。

緩和政策の変遷

だが問題は緩和の内容だろう。多くの先進国の政治家は嫌でも支出を減らしたくなかったので、景気後退が起きる度に緩和政策を行なってきた。

まずは利下げから始まった。アメリカでは1980年からコロナ後まで、40年以上利下げが行われていた。それが過去40年の米国株の上昇理由だった。

だが利下げも2008年のリーマンショックで金利がゼロに到達すると、それ以上利下げを行なうことが出来なくなった。

そうして様々な新しい緩和方法が考案されてきた。ガンドラック氏は利下げ以外に行われてきた緩和政策について次のように語っている。

量的緩和、銀行の国有化、政府支出の増加、債務の少しの減免…

銀行の国有化は、2008年にアメリカ政府がいくつかの銀行を救済したことを指しているのだろう。

量的緩和は、これもアメリカではリーマンショックの後に始まっている。

そして政府支出は永遠に増え続けている。

だがそれで経済は良くなっただろうか。インフレ政策や円安政策で約束通りインフレと円安を手に入れた日本人はさぞかし幸せだろう。

ファンドマネージャーらは緩和政策にずっと反対してきた。ガンドラック氏はコロナ後のばら撒きに最初から反対していた。だが誰も聞かなかったではないか。

リーマンショック後の経済政策

その後政府と中央銀行は何をしただろうか。ガンドラック氏は次のように述べている。

トランプの大統領選出、金利の正常化、これもやった。理由のない利上げ、これも2018年にやった。

1番目はジョークである。だが実際に起こり、経済は良くならなかった。トランプ氏がもう一度大統領になった場合の経済政策については、ポール・チューダー・ジョーンズ氏が語っている。

2018年には、パウエル議長が連続利上げを行なった。そして世界同時株安を引き起こした。

ガンドラック氏は明らかに、当時と今をパラレルに見ている。当時、パウエル議長が利上げをやり過ぎたように、パウエル議長は今もう一度やり過ぎようとしている。

また、リーマンショック後に起こった他の政策にガンドラック氏はマイナス金利を挙げている。彼は次のように言う。

マイナス金利、これはアメリカでは行われていないが、実質金利は間違いなくマイナスになり、2016年には世界的には18兆ドルの債券がマイナス金利になっていた。

これは今はなくなっている。日本のマイナス金利だけが残っているが。

インフレで多くの中央銀行が利上げしたために、いまだにマイナス金利を行なっているのは日本だけである。

そしてコロナ後まで話が進む。現金給付である。ガンドラック氏は次のように言っている。

ヘリコプターマネー、コロナ対策でこれもやった。

紙幣は直接人々にばら撒かれた。そしてそれは物価高騰を引き起こした。

世界的な物価高騰の原因は現金給付であり、ウクライナ情勢とはほとんど無関係であることは、もう何度も説明している。

これからの緩和政策

緩和政策はこのように進化してきた。そして緩和政策が進化する度に状況は悪くなってきた。今や日本はインフレと通貨安に襲われている。基軸通貨であるドルを保有する米国だけが、通貨安の問題を延期できている。

緩和政策はこれからも進化し、そして経済をどんどん悪くしてゆくだろう。だが具体的にどうなるのか。人々に直接お金をばら撒く現金給付以上に出来ることがまだあるのか。

ガンドラック氏によれば、それはまだあるらしい。彼は次のように述べている。

紙幣印刷による債務支払い、これはヘリコプターマネーとは別だ。紙幣印刷による債務支払いとは、ほとんど200兆ドル存在する債務を紙幣印刷で支払うことだ。

中央銀行は量的緩和で国債を購入してはいるが、それで政府債務を直接取り消しにはしていない。これを直接取り消しにする緩和政策は、まだやっていない。

GDPの100%を超える巨大な政府債務も、紙幣印刷ですべて支払ってしまえば帳消しになる。

それは可能性である。政府はそれをやる可能性がある。だがインフレ政策で実際にインフレになった今、それでインフレが起きないと主張する人がまだ居るだろうか?

まだ試されていない政策は他にもある。ガンドラック氏は次のように述べている。

資産税。カリフォルニアではそれが検討されている。

わたしはカリフォルニア州政府を鷹のように観察している。1972年物のGMシボレー454V8ピックアップトラックに乗ってアラバマまで東にドライブするまであと一歩のところに来ているからだ。

政府は自分で増やした借金を人の金で支払おうとしている。それが増税である。国によってその標的が富裕層であったり、中間層であったりする。

だが同じことだろう。政治家と既得権益層が一部の一般の票田と結託し、被害者から徴税という名の搾取を行なったり戦争を行なったりする図式は変わらない。

そしてガンドラック氏は最後に究極の緩和手段を呈示する。彼は次のように言っている。

そしてデフォルトだ。

それが最後の手段だ。紙幣印刷による債務の支払い、資産税、それで一部の人々は良い気持ちになるかもしれないが、それで問題が解決するわけではない。

そして最後にはデフォルトが残されている。

デフォルトは緩和政策の最終形態である。他の緩和政策ではインフレが起こったり、あるいは金融引き締めによってインフレが景気後退に転換されたりするが、問題は永遠に終わらない。

デフォルトだけが問題を根本から吹き飛ばすだろう。

結論

ガンドラック氏はデフォルトを未来の可能性の1つとして挙げている。実際にはどうなるだろうか。

実際には、このままインフレ&金融引き締めと景気後退&緩和再開のいたちごっこが続いたあと、インフレと通貨安が許容不可能なレベルにまで悪化し、そして最終的には政府はデフォルトを選択することになるだろう。

インフレが実は物価上昇という意味だったことに最近気づいた日本人だが、インフレ政策が完全なペテンだったことに気づいた人々も、先進国が破綻することはないという幻想はまだ信じている。

だがBridgewaterのレイ・ダリオ氏は、先進国の中央銀行も破綻すると言っている。

もしかしたら中央銀行が破綻して、政府は破綻しないというシナリオもあるかもしれない。だが中央銀行と政府は一体なので、どちらかの債務がどちらかに移転され、どちらか一方が破綻を回避しても結局は同じことである。

政府は破綻する。それが何十年も続けられた緩和政策の結末である。その尻拭いの過程で、国民は増税とインフレと通貨安を存分に楽しむことになるだろう。そういう政治家を自分で選んだ人々の自業自得である。