ビル・グロス氏: 米国株もジャンク債も高過ぎる、経済成長は過去のもの

債券王ビル・グロス氏がトランプ相場で株高、金利高となった金融市場に警鐘を鳴らしている。

もう一人の著名債券投資家ガントラック氏もトランプ相場の巻き戻しを予想しているように、金融市場はトランプ政権の政策実行能力を疑問視し始めているなか、グロス氏はより長期的な視点から警告している。

長期停滞論再び

グロス氏がJanus Capitalの月間投資レポート(原文英語)で主張するのは、今の先進国経済から以前のような高い経済成長や高いリターンを得ることは出来ないということである。これはトランプ相場以前、ほとんどすべての著名ファンドマネージャーの共通認識であった長期停滞論である。

グロス氏はこう語る。

株式市場はあまりに多くを期待しており、ジャンク債はあまりに高い経済成長を織り込んでいる。こうした資産価格は人工的なものであり、過去6年かあるいはリーマンショック前のようなリターンを今後も得られるという先入観に影響された投資家が、その水準を妥当だと信じているに過ぎない。

では、現在の金融市場がどうなっているのか、もう一度長期的な水準を見てゆこう。先ずは株式市場だが、トランプ相場に疑念が生じているにもかかわらず、市場最高値付近で推移している。

そして次にジャンク債である。以下はジャンク債を集めたETFのチャートとなる。

より重要なのは利回り(つまり金利)だが、この価格水準で利回りは5%程度となっている。

倒産のリスクが大いにある債券のETF(つまりは寄せ集め)の5%という利回りの絶対値そのものを、高いあるいは低いと厳密に評価するのは現実的ではない。その中にはリスクの異なる様々な企業の債券が含まれているからである。

しかし、ジャンク債ETFが主に米国のシェール企業の発行する高利回り債で構成されることを考えれば、このETFの株価が2010年から2015年までの水準に肉薄することが不自然であるということは、次のチャートを見れば明らかである。

つまりは原油価格である。

各社の決算を見れば明らかだが、シェール企業の財務状況は、回復しない原油価格によって引き続き圧迫されている。にもかかわらず、ジャンク債の水準は原油暴落以前の水準に近づいているのである。

結論

何度も言うように、株高の主な要因はトランプ大統領の約束した法人減税である。法人税が低くなれば、その分だけ利益が増える。したがって株価も上がる必要があるということである。

一方で、トランプ政権の提案する法案が議会を通っていないため、そうした政策の実現可能性が疑われている。

事実、トランプ大統領は一度断念した保険制度改革にもう一度取り組むために、減税を後回しにする方針を明らかにした(Fox、原文英語)。以下はトランプ氏の発言である。

保険制度を改善すれば膨大な額のお金を節約出来る。優れた保険制度を実現し、浮いた資金で税制改革に着手する。そうしなければ減税に回す資金を得られない。

多くの投資家は減税が後回しになったと警戒しているが、必ずしもそうとも限らない。シリア攻撃で政権内の勢力を入れ替えたことで、オバマケアをめぐり対立していた共和党保守派との和解の目処が立ったということかもしれない。

しかし、減税の実現がどの時期になるとしても、これまで言及してきた通り、米国株は「選挙公約から政策実現までの空白期間」の試練を受けなければならない。政策の似ているレーガン政権の時には、それは株価暴落を意味したというのは、以下の記事で説明した通りである。

1981年から1982年にかけての時期がレーガン政権の「空白期間」である。

だからトランプ大統領は今になって「ドルは高くなり過ぎた」(Reuters、原文英語)「正直に言えば、低金利政策が好きだ」(Washington Post、原文英語)などという発言をしたのだろう。

しかし大統領が金融政策に影響力を行使できるのはFed(連邦準備制度)の議長の任命という点のみであり、同時に「イエレン議長を尊重する」と発言している点を踏まえれば、実質的には現状維持を支持したということになる。

恐らくは、この低金利発言は、レーガノミクスの時のような期待剥落による株価急落という事態を恐れてのリップサービスだろう。ファンドマネージャーで大統領の友人のジョン・ポールソン氏かカール・アイカーン氏あたりが市場参加者の不安を大統領に吹き込んだのだろう。