2019年へのドル円のレート推移予想と空売り開始

さて、そろそろ新しいポジションを始めてみようと思う。ドル円の空売りである。

2018年、アメリカでは金融引き締めが続いている。利上げによって政策金利は2%まで上昇し、それに加えて量的緩和を逆回転させるマネタリーベース縮小は、量的緩和と同じ速度で世界の金融市場から毎月資金を引き揚げ続けている。

既にリスクオフに向かっている世界市場

日本市場しか見ていない日本の投資家であればその影響も感じられないかもしれないが、世界市場を眺めているここの読者であれば、アメリカの金融引き締めで金融市場がかなり引き締まっていることを既に肌で感じているだろう。

マネタリーベース縮小とはFed(連邦準備制度)が米国債などの保有額を減らし、その分は市場の負担となるというものだが、それで影響を受けるのは米国債だけではなく、世界市場の様々な金融資産から資金が流出し、その流出速度も、各銘柄によって異なるということ昨年12月に指摘しておいた。

この12月の記事で羅列した中で、一番好調だったのは新興国資産の空売りだったようである。典型的なのはトルコリラで、トルコの政治状況などもあり年始から20%以上も売られた。以下はUSDTRYのチャートで、上方向がドル高リラ安である。

中国元もドルに対して同じようなトレンドである。

つまり、新興国から資金が流出しているのである。これは通貨だけではなく株式においても同様で、以下は中国の株価指数である上海総合指数のチャートである。

高値から20%程度下落している。通貨も下落していることを考えれば、現地通貨建てでの投資は大損になっている。2月に新興国株への強気姿勢を撤回したレイ・ダリオ氏の判断は正しかったということになる。

12月の記事でも書いたが、基本的に金融引き締め相場ではリスクの高い資産から順番に売られてゆく。その一つが新興国の資産である。だから、先進国の市場しか見ていない投資家には、世界市場で何が起こっているのか全く分からないだろう。

新興国以外に目を向けると、アメリカのジャンク債は以下のように推移している。著者が事前に想定したほどは下落しておらず、これは一つには、OPECの価格釣り上げによって原油価格が上昇し、ジャンク債を発行している米国シェール企業に資金が流入したためである。

一方で、利上げで実質金利が上昇したため、金価格は下落トレンドにある。つまり、金相場からも資金が流出していることになる。

一方で、先進国の市場はまだまだ下落が足りないというべきだろう。特に、米国株はいまだ強い。下げ相場で一番最後まで下げないのは、いつも米国株だからである。しかし、米国株も下げないわけではない。最後まで下げないというだけである。

世界の金融市場チャートが意味するもの

さて、沢山のチャートを見たが、これらが意味するものは一体何だろうか? 世界市場から着実に資金が引き揚げられており、下げ相場は確かに順番にやってきているということである。

ではどうすべきか? 株を空売りすれば良いのか? 一方で、投資家が注意すべきは、米国利上げの停止が近いということである。

アメリカのインフレ率は上がっており、Fedが予定していた数字まで政策金利を上げることに障害はないと言えるが、恐らくは利上げはあと2回程度であり、時期で言えば2019年前半に利上げ停止ということになるだろう。これについては以下の記事で詳しく説明している。

つまり、時間制限があるということであり、それまでに米国株まで売りが波及するかどうかというのはある意味賭けになってしまう。しかし、この状況で利上げ停止でも利上げ続行でも下がる銘柄がある。ドル円である。

2019年に向けてのドル円の推移予想

先ず、以前にも書いたように、ドル円は基本的にはアメリカの実質金利に影響されるが、利上げによって実質金利が上がったにもかかわらず、ドル円の上昇はかなり限られたものになっている。実質金利を考えれば、本来ドル円は120円に近づいていても良いのだが、そうなっていない。

この記事で詳しく説明した通り、それは何故かと言えば、金利が上がれば世界市場でリスクオフとなり、リスクオフとなれば、信用取引の資金調達通貨となっていた円などの低金利通貨(円を売って資金を調達する)が、ポジションの解消により買い戻され、円高となるからである。

今後、世界の金融市場には2つの方向性が存在する。金融引き締めの弱気相場がついに米国市場にまで到達し、世界的なリスクオフになるか、そうなる前にFedが金融引き締めを止めるかである。

ここで考えてもらいたいのは、どちらになってもドル円には悪材料だということである。世界的な弱気相場となればリスクオフで円高となり、金融引き締め撤回になればアメリカの金利低下でドル安となる。どちらにしてもドル円は下落するのである。

したがって、ドル円の空売りを開始することにする。このトレードのリスクとしては、リスクオンと金融引き締めの継続が同時に起こることだが、それは短期的に起こる可能性はあっても、長期的に継続する可能性は低いと見ている。短期的にそうなった場合に追加で売りを行う可能性を見据えながら、120円程度までの上昇には耐えられるようにポジションを組み、100円に向けて下落してゆくことを想定したい。

もう一つのリスクは実質金利が上がることであり、これは利上げだけが原因ではなく、リスクオフによってインフレ率が下落することで、名目金利からインフレ率を引いたものである実質金利が上昇するシナリオが考えられる。2008年に起こったシナリオである。

これをヘッジするためにはTIPS(インフレ連動米国債)を取引する必要がある。日本の個人投資家にはそのETF(NYSEARCA:TIP)を利用する方がアクセスしやすいかもしれないが、どちらにしてもインフレ連動債を空売りする必要があるので、難しいかもしれない。ゴールドを空売りする方法もあるが、TIPSとゴールドは(特に短期的には)必ずしも同じ動きをしないので、注意したい。

また、日経平均もドル円に影響されるため、日本株も今後の上昇が難しいと言える。ただ、金融引き締め撤回となれば、ドル円が下がることの影響を除けば日経平均単体にとってはプラスになる。金融引き締めが撤回される来年前半までならば、ドル円より日経平均が好調の時には、ドル円の代わりに日経平均の頭を叩くのも良いだろう。