イールドカーブ逆転は何が問題なのかと、銀行株が暴落している理由

金融業界で最近話題になっているのがイールドカーブの逆転である。イールドカーブの逆転とは長短金利の逆転であり、つまり短期金利が長期金利を上回っている状態のことを指す。しかしイールドカーブの逆転はそもそも何が問題なのだろうか? この記事で一度纏めてみたい。

短期金利、長期金利

先ずそもそも長期金利や短期金利とは何かということだが、国債などの債券とはお金を貸した証拠となるものであり、債券の保有者は債券が満期になるまで金利を受け取り続け、満期になれば貸し付けた元のお金が返ってくることになる。この満期までの期間は1年であったり2年であったり10年であったりする。この期間の長さによって債券は短期であったり長期であったりするのである。

さて、では期間の長さによって債券の金利がどう変わってくるのかだが、金利とは貸付のリスクによって決まってくる。破産してお金が返ってこない可能性の高い借り手には高金利で貸し付けることになり、逆に破産する可能性の低い借り手には低金利で貸し付けられることになる。借り手が同じである場合、期間が長いほどその間に破産する可能性が高くなるため、基本的には長期の債券ほど金利が高くなるのが普通なのである。

長短金利逆転

さて、問題になっているのはその長短の金利が普通とは違って逆になる、つまり短期の金利の方が高くなる場合のことである。現在問題となっているのはアメリカの長短金利逆転なので、先ずはアメリカの各種金利を並べてみよう。

  • 政策金利: 2.00%-2.25%
  • 1年物国債: 1.73%
  • 2年物国債: 1.51%
  • 5年物国債: 1.40%
  • 7年物国債: 1.46%
  • 10年物国債: 1.52%

先ず一番高いのは一番短期の政策金利である。そこから徐々に低くなってゆき、一番低いのが5年物であり、そこから再び上昇している。

では、長短金利の逆転とはどれとどれの逆転かということだが、一般的には2年物国債(短期金利)と10年物国債(長期金利)を比べたもののことを言う。現時点ではかろうじて長期の方が高いが、これがひっくり返ったタイミングが最近あり、それが話題になっているのである。

長短金利が逆転すると金融関係者が慌て始める第一の理由は、逆転の後に実体経済が景気後退に陥ることが多いからである。長期金利は実体経済の成長率やインフレ率に左右されやすいが、短期金利は政策金利の今後の見通しを物語っているため、長期が低いのに短期が高いとは、経済の見通しが悪いのに中央銀行の設定する金利が高すぎることを意味している。

長短金利逆転の過去の例

過去の例ではどうなっているのだろうか。10年物国債の金利から2年物国債の金利を引いたものをチャートにすると、以下のようになる。

ゼロ以下になった部分が長短金利が逆転した箇所であり、灰色の部分はアメリカ経済が景気後退になった期間である。

これを見ると、長短金利が逆転した直後にはほとんど毎回景気後退に陥っていることが分かる。1998年と2006年にはほんの少しの間長短金利が逆転した後、一度持ち直してから再び長短金利が大きく逆転しており、今回の逆転を「少しの間逆転しただけでは景気後退のサインとならない」と主張した当局関係者が居たのも頷ける。ただ、そうした場合もその後もう一度逆転した後に景気後退に陥っているのである。

やはり、このチャートを見ると長短金利逆転は景気後退の前触れとして大きな意味を持っているようである。しかし、それは来年かもしれないし、3年後かもしれない。最初に逆転してからどれくらいで景気後退になるかには差があるようである。

長短金利逆転は景気後退の原因か

ただ、長短金利逆転は景気後退の直接的原因というわけではない。長期金利が低いこと自体は経済にとって好条件である。短期金利が高くとも、実体経済に影響するような住宅ローン金利や自動車ローン金利などは長期金利をもとに決定される。

ただし、長短金利が逆転すると立ち行かない業界が一つある。銀行業である。銀行は消費者から預かった預金を企業などに貸し付ける商売であり、一般的に預金は短期の預かりで、企業向けの貸し付けは長期の貸し付けである。長期より短期の方が高いと、企業から受け取る金利より預金者に支払う金利の方が高くなってしまい、商売をするだけ赤字になってしまう。

銀行株が世界的に大暴落しているのはそういう理由である。例えば以下はアメリカの大手銀行Wells Fargoの株価チャートである。

2018年初頭がピークで、そこから大暴落している。アメリカの株価指数S&P 500は2018年の下落から持ち直していることを考えれば、銀行株が特に下落していることが分かる。

銀行株の下落トレンドは世界的なものであり、日本株でも銀行株はかなり不調である。UFJや三井住友などは株価収益率が7前後にまで落ち込んでいる。

結論

こうして見ると、2018年は銀行株の絶好の売り時だったと言える。筆者は株の空売りを2018年の秋前に始めたため、2018年初頭に天井を迎えた銀行株を売るタイミングを逃してしまったが、リスクオフによって金利が低下し、しかも中央銀行の対応が遅れることが予想されるとき、それがもたらす結果は長短金利差の縮小であるため、銀行株の空売りはかなり旨味のあるトレードである。

今から思えばそれを逃してしまったわけだが、自分のトレードにあまり不満は言わないでおこう。予想はほとんどすべて当たり、株とドル円の空売りで充分利益が出ているからである。これで文句を言えば罰が当たるというものだろう。