トランプ政権: ドイツは「酷く安い」ユーロを利用して他のEU諸国から搾取している

トランプ大統領が貿易摩擦を解消するために創設した国家通商会議のトップであり、対中強硬派として知られるナヴァロ氏が、ユーロ圏におけるドイツの利権を批判している。Financial Times(原文英語)が伝えている。

先ず、トランプ政権はTPPのような多国間貿易協定よりも二国間協定を望んでいる。それは恐らく、第一に二国間協定ならばより二国の関係の状況に合った内容の協定を結ぶことが出来ること、そして第二に多国間貿易協定には自分勝手なグローバル企業が群がり、彼らの要求が色濃く反映されてしまうからだろう。製薬会社の件といい、トランプ政権はつくづく利権の在り処を熟知している。

さて、ナヴァロ氏はそうした観点からTTIP(米国EUの関税同盟)を次のように批評している。TTIPは米国とEUの関税同盟だが、これが二国間協定と呼べるかどうかという問題である。

TTIP(米国とEUの関税同盟)を二国間協定とみなすための大きな障害はドイツだ。ドイツは酷く過小評価された、「事実上のドイツマルク」であるユーロを利用して、他のEU諸国とそして米国から搾取し続けている。

貿易におけるドイツの、その他のEU諸国および米国に対する構造的不均衡は、EU内が経済的に均一ではないことを示している。これは二国間協定の衣を被った多国間協定だ。

やや複雑だが、要するにナヴァロ氏はユーロという共通通貨がドイツに対して極端に有利な仕組みになっており、その状況が是正されるべきだと言っているのである。これはわたしがずっと主張してきたことであり、そしてソロス氏のような論客が随分前から指摘してきたことである。

冷淡な態度を貫くドイツ

さて、これをドイツ側がどう考えているかと言えば、ナヴァロ氏の批判にドイツのメルケル首相は端的にこう答えた。

ドイツがユーロに影響を与えることは出来ない。

これは二つの意味で欺瞞である。第一に、2010年に欧州債務危機が起こるまで、個人的な理由で金融緩和を嫌い、ユーロ高の継続を主導してきたのはドイツである。そして第二に、ドイツはユーロ圏に居るだけで何もせずともユーロを通貨高に導いている。逆に言えば、イタリアやギリシャがユーロ圏に居ることで、ユーロはドイツにとって安くなっている。それがドイツにどういう利益をもたらしてきたかは、以下の記事にグラフも載せて説明してある。

このユーロの仕組みによってドイツは利益を得、ギリシャやイタリアは欧州債務危機に追い込まれた。

しかしこの事実に対するドイツ人の態度は、メルケル氏の発言に代表される冷淡なものである。ショイブレ財務相はその状況を次のように表現している。

(ドイツは)生活水準を他のEU諸国と分かち合うことを考えるべきなのだが、そうした考えは今のドイツではタブーとされている。

ドイツ人は他国の不満など無視して現状維持をしてゆきたいと思っているわけである。

トランプ政権の対ドイツ政策

しかしトランプ政権は恐らく、ユーロ圏のこの状況をドイツに対する交渉材料にしてゆくだろう。この件に限らずトランプ政権の交渉術は非常にビジネス的であり、交渉材料として使えそうなものはすべて交渉材料にしようとしている。その是非はともかく、状況はその方向に進んでゆくだろう。トランプ大統領の保護主義は実現してゆく方向にある。

因みに、トランプ大統領自身はEUについて次のように述べている(Financial Times、原文英語)。

イギリスだけではなく、他の加盟国も離脱してゆくだろう。EUが維持されるというのは、多くの人が思うほど簡単ではないと考えている。もし難民がヨーロッパ中に流入し続けるならば、EUを維持するのは非常に難しい。人々が移民政策に対して怒りを表明しているからだ。

また、ドイツに対する批判はもっとあからさまである。

EUとは要するにドイツのことだ。EUはドイツのための乗り物なのだ。だからイギリスがEUを離脱した時、それはとても賢明だと思ったのだ。

こうした見方は経済学者やファンドマネージャーの間では常識に近い考えだったが、EUという超国家的組織を支持するグローバリスト達が幅を利かせていた頃は政治の世界には反映されていなかった。

しかしいまや経済学的事実の方が主流の考えとなりつつある。投資家はこの流れを捉えながらイタリアとフランスの政情を眺めなければならない。そうでなければ、Brexitやトランプ大統領の時のように、多くの人が結果を思い違えることになるだろう。