2018年アメリカ経済が強い理由、ある経済指標が金融危機の水準に

2018年のアメリカ経済は強い。Fed(連邦準備制度)が利上げをし、金利が上がっているにもかかわらず最新のGDP統計は2.50%となっている。

強いアメリカ経済の理由

その原因は何だろうか? GDP統計の内訳を分析した記事でも述べたように、内容を見れば個人消費が全体を牽引していることが分かる。企業の投資はやや減速しており、トランプ政権のインフラ投資も実現していない現状では、政府支出も動いていない。

では、アメリカ経済の好調は続くのだろうか? この問いを考えるためには、個人消費が何故強いのか、そしてアメリカの家計の余力がどれだけ残っているのかを考える必要がある。

しかし、家計の余力とはどのように調べられるのだろうか。投資家であれば、調べるべき経済指標の名前をすぐに複数個挙げられなければ、及第点には届かないだろう。

個人消費を占う経済指標

先ずは何より実質可処分個人所得の成長率(前年同期比、以下同じ)である。個人消費を考えるためには、先ず収入がどれだけ増えているかを考えなければならない。チャートは以下のようになっている。

先ず、個人の収入は伸びている。しかもトランプ大統領の任期と重なるように、2017年から急に上昇トレンドに入っている。最新のデータで成長率は2.14%である。

しかし、収入が増えているからといって、直ちに消費が増えるというわけではない。収入が増えても使わない場合が考えられるからである。

そこで注目するのが貯蓄率である。収入のうちどれだけを貯蓄に回しているのかが分かれば、家計にお金を使うつもりがあるのかどうかが分かる。貯蓄率のチャートは以下のようになっている。

やや危機感のある話なのだが、この貯蓄率が現在2.4%となっており、2008年の金融危機直前の数値まで落ち込んでいる。つまり、アメリカの家計は貯蓄にお金を回す余裕がないということになる。

つまり、2018年のアメリカ経済の好調は、アメリカの家計の収入が増えているからでもあるが、一方では貯蓄を減らして消費に回しているからでもあるということになる。2015年辺りからの下落トレンドには目を見張るものがある。

貯蓄率が2.4%であれば、アメリカの家計には貯蓄に回す分を減らして消費に回せる余地がもうほとんど残っていないということになる。アメリカ経済は貯蓄率の減少という経済の成長要因を既にほとんど使い切っているのである。

結論

では、個人消費にはもう上昇の余地はないのか? それが必ずしもそうではない。もう1つ検討すべき経済指標を忘れているからである。

それは「可処分所得に占める債務支払いの比率」である。つまり、収入のうちどれだけが債務の支払い(住宅ローンやクレジットカードの支払いなど)に充てられているか、ということになる。チャートは以下のようになっている。

アメリカの家計の債務支払いは、金融危機後大幅に減少したのである。世界最大のヘッジファンドを運用するレイ・ダリオ氏も、アメリカ経済は金融危機後「美しい債務解消」を果たしたとしており、この指標などはその証拠になるだろう。

つまり、アメリカの家計にはまだ債務を増やして消費をする余地が残っていると言える。しかしそうなればそれはバブルである。アメリカ人が(そしてアメリカの個人消費が)その方向へ向かうのかどうか、投資家は注目しておく必要があるだろう。

少なくとも1つ目のドライバーである貯蓄率の減少の方はもう限界に達しているのである。そして債務を増やすにしても、金利が上がってしまっていることを考慮しておくべきだろう。それを考えれば、アメリカの個人消費の天井は近いのかもしれない。

因みに貯蓄率は長期的には、先進国の低成長トレンドが始まった時期とほぼ同時期に下落を開始している。

つまり、貯蓄率低下は先進国経済の長期停滞の一因であり、その貯蓄率が現在ほとんど底にある。そして債務を増やそうにも金利は上がろうとしているのである。

やはり2018年の米国GDPの主役は個人消費ではなく、トランプ政権のインフラ投資になるだろう。果たしてトランプ大統領は議会を説得出来るだろうか? 今後もアメリカ経済の動向については報じてゆく。