ユーロ圏の人々が通貨安回避のために買う通貨・銘柄は?

ユーロの下落が止まらない。前回の記事に書いた通り、ユーロは下落を続けており、1つの理由は、ユーロ圏の人々が通貨安によって自分の資産が損なわれてゆくのを回避するため、ユーロ圏の人々がユーロを売っているからだと推測している。日銀が量的緩和を始めた時のジョージ・ソロスのコメントを引用しよう。

円が下落し始めれば、日本国民は円が下がり続ける可能性が高いと気付き、自分たちの資金を海外に移そうとするだろう。そうすれば、円は雪崩を打って下落する可能性がある。(CNBCによるインタビュー)

これは、日本国民の国民性を考慮していなかったために正しくなかったが、今回のユーロ圏の量的緩和には非常によく当てはまっていると言える。この文化的な背景については前回の記事に書いたが、ではヨーロッパ人はユーロ安から逃れるために何を買っているのか? いくつかの候補を挙げてみよう。

他国の通貨

先ずは何よりドルだろう。経済の知識のあるヨーロッパ人であれば、この状況で買うべき通貨はドルだと判断するはずである。事実、多くのファンドマネージャーもこの選択肢を取っているはずである。ドル高反転の危険性については下記の記事に書いたが、他に保有すべき通貨が多くないことも確かであり、ドルがこれから更にバブルとなる要因は多い。ユーロ圏からの資本逃避はその1つだということである。

また、文化的・地理的に買われやすいのは英ポンドとスイスフランである。例えばパリとロンドンは列車で2時間ほどであり、パリに昼食を食べに日帰り旅行するイギリス人がいるほどの距離感であるから、隣国の通貨を保有することに比較的抵抗がないのである。

スイスについては、ドイツ語圏、フランス語圏、イタリア語圏を持つために、スイスフランは多くのヨーロッパ人にとって本来ならば一番親しみやすい通貨となるはずだが、スイス中央銀行への人々の信頼が薄い現在は、少し魅力の劣る通貨となったかもしれない。

ドイツ株

さて、ここからが本題である。ユーロを売らずに通貨安を回避する方法が存在する。株式の保有である。通貨安とは物価安ではなく、むしろ物の相対的な価値の上昇であり、不動産や企業の設備などは通貨安の影響を逃れることになる。その国の通貨がどれだけ下がろうとも、その国にある物自体の価値が下がるわけではない、ということである。したがって、不動産や設備などを保有する企業の株式は通貨安の局面で買われやすい。これは、日本の株式市場でこれまで実際に起こってきたことである。

ここまで述べてきたように、ヨーロッパの資本逃避需要は日本のそれより大きいはずであり、投資家にとっての問題は、ではその需要はどれほど大きいのかということである。これを測る指標は、先ずは何より異常な速度で下落してきたユーロ安であるが、どうやらこのシナリオはドイツ株にも当てはまるのではないかと思っている。

米国株の下落をよそに上昇を続けるドイツ株

急速なユーロ安にも驚かされたが、もう1つ少し予想外だったものがある。それはドイツ株の強さである。

ポートフォリオの概要を開示した上記の記事で、米国株のポジションには空売りのヘッジを付けたが、欧州株にはヘッジを付けていないと書いたのを思い出してほしい。米国株の先行きに悲観的であったことから、欧州株にもヘッジを付けるべきか迷ったが、結局この判断は現在のところ非常に上手く行っている。例を挙げよう。

この記事で紹介した銘柄のなかで、ベンツなどの自動車を製造するDaimler (XETRA:DAI、Google Finance)は、紹介した時点ですでに上昇基調に入っていたが、その時点から更に15%以上上昇し、P/E(株価収益率)が14に達している。米国株が下がり始めたことで、ヘッジを付けていない欧州株のロングポジションが損を出し始めることを覚悟したが、ドイツ株は上昇基調を崩していない。

ドイツ株が資金の逃避先になっているのであれば、Daimlerなどの主要銘柄は過大評価される可能性がある。P/E 14台後半で利益を確定しようかと思っていたが、ポジションを一部を残して過大評価に賭けてみても良いかもしれない。需給が強力であるときには、ファンダメンタルズは無視されるのである。

もう片方のドイツ株、フランクフルト国際空港を保有するFraport (XETRA:FRA、Google Finance)は足踏みを続けているが、資本逃避銘柄としてはこちらの方が本命である。ユーロが下がれば欧州への旅行客が増え、ドルが上がれば原油が下がり、しかもフランクフルト国際空港の立地は市街地からほど近い場所であるため、不動産としても量的緩和の恩恵を受けることになる。欧州株は主要銘柄以外は織り込みが遅いが、良いものはいずれ買われる市場でもあるので、じっくりと待つとしよう。

流動性相場の強さが暗示する暴落

この記事で「2015年前半の米欧の株式の動きは、金融市場において、流動性とファンダメンタルズのどちらが勝利するのかを推し量る試金石となるだろう」と書いたが、米国株の下落とドイツ株の好調さは、流動性相場が業績相場を上回っていることを意味する。では、実体経済の強さを理由に金融引き締めを行おうとしている米国の金融市場では何が起こるのだろうか? 引き続き注視してゆきたい。