Rosenberg Researchのデイヴィッド・ローゼンバーグ氏が、デイヴィッド・リン氏によるインタビューで為替相場の見通しについて語っている。
利下げと為替市場
トランプ政権が関税に猶予を与えたために株式市場は大喜びで反発しているが、ローゼンバーグ氏はこれまでの記事で、アメリカ経済は皆が思っているよりも弱く、Fed(連邦準備制度)は利下げをせざるを得なくなると予想していた。
ローゼンバーグ氏の予想のようにアメリカが利下げするとなれば、投資家が気になるのは為替市場だろう。ローゼンバーグ氏は次のように述べている。
今年の後半にFedは利下げに追い込まれることになる。その時には他の国の中央銀行は緩和を完了しているだろう。
問題となるのはそのタイミングである。ヨーロッパではアメリカがウクライナ戦争から手を引きつつあることから、アメリカの手を借りず自分で防衛するために防衛費を上乗せしており、その財政支出が欧州株を押し上げている。
ローゼンバーグ氏は、その財政支出が更なる金利上昇をもたらす可能性を指摘し、次のように言っている。
ヨーロッパではドイツの主導で大きな財政刺激が行われている。一方、アメリカでは財政赤字の限界が意識されている。
ヨーロッパでは財政支出が金利とユーロを押し上げる。そしてアメリカは逆の状況に陥っている。4月の株安で米国債が急落したこともあり、財政赤字を何とかしなければ米国債下落のリスクがある。
この状況から、ローゼンバーグ氏はまずユーロドルについて次のように予想している。
すべての道はユーロ高に通じている。
ユーロドルのチャートは次のように推移している。上方向がユーロ高ドル安である。

ドル円の動向予想
さて、ではドル円はどうなるのか。ローゼンバーグ氏は日本円について次のように述べている。
それに加えて、現状この地球上で日本円ほど馬鹿げているほど安いものはない。
これは日本人としてはどう反応して良いのか微妙だが、日銀が日本円を馬鹿げているほど安い状態にしているのはただの事実である。かつては裕福な日本人が東南アジアへ行って「物価が安い」と言っていたのが、今に裕福な東南アジア人が日本に来て「物価が安い」と言うようになるだろう。
それは緩和政策を何年も支持してきた日本人が自分で選んだことである。円安政策とインフレ政策が円安とインフレをもたらして驚いている人がいるとすれば、その人は文字が読めないのだろう。
日銀の黒田元総裁が量的緩和で円相場をそのような状況に置いた後、植田現総裁がその後始末をしている。
植田総裁に代わった後、日銀は何度か利上げをした。だがローゼンバーグ氏は(誰でもそうだが)それが十分だとは思っていないようである。
ローゼンバーグ氏は次のように言っている。
日銀は実質金利をマイナスに留めている。日本ではインフレの問題は大きくないが、国際の利回りの状態は日本経済とインフレの状態と合致していない。
ローゼンバーグ氏が言いたいのは超長期金利に対して政策金利が低すぎるということだろう。政策金利は0.5%であるのに対し、30年物国債の金利は3%を超えている。
いよいよ日本もゼロ金利ではなくなってきたとは言えるが、最近は日本の超長期金利の上昇が債券市場で話題になっており、政策金利を低く抑えていなければ、政策金利に近い比較的短期の金利はもっと上がっているのが自然だと誰もが考えている。
だからローゼンバーグ氏は次のように続ける。
だから日銀は金融政策を引き締めるだろう。そして日本円は上昇することになる。
ドル円のチャートは次のように推移している。下方向がドル安円高である。

結論
筆者はアメリカ経済に対して(それが株式市場が考えるより弱いことには同意するが)ローゼンバーグ氏ほどの弱気派ではないものの、ドルの見通しについてはある程度同意している。
第1次トランプ政権ではインフラ投資で財政赤字が金利上昇・ドル高を演出した。だが今回はそれができない。米国債を支えたければ財政赤字を減らすか金融緩和をするほかなく、その結果犠牲になるのはドルである。
ローゼンバーグ氏は次のように述べている。
ドルは今から年末までに安値を更新するだろう。
そして筆者の意見では、来年に向けてのドル安はただの一時的なドル安ではない。アメリカの債務問題がドルを犠牲にしなければ維持できない状態になってしまったということは、Bridgewaterのレイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想している長期的なドルの下落相場がついに始まるということである。
また、筆者は円やユーロよりもゴールドやシルバーの方が良いと考えている。以下の記事も参考にしてもらいたい。

世界秩序の変化に対処するための原則