ネイピア氏: 株式投資に高いリターンを求める個人投資家が失敗する理由

引き続き、The Solid Ground Newsletterのラッセル・ネイピア氏の、Making Money Podcastによるインタビューである。

今回は株式市場に投資する個人投資家について話している部分を取り上げたい。

群集心理とバブル

前回の記事でネイピア氏は、金融市場には群集心理が大いに働いていることを指摘していた。

そして群集心理がバブルを生み出している。人々がその資産に押し寄せ、ある程度の時間が経てばその資産から離れることでバブルの生成と崩壊が出来上がる。

さて、今バブルは存在しているだろうか? 金融業界の人間のみならず、普段ならば株式や債券やデリバティブなどに手を出そうとさえ思わないような人々が、こぞって買っている資産はあるだろうか? それは株式である。

個人投資家の平均リターン

このインタビューで司会者はある統計を持ち出している。世界の株式の平均リターンは6%であるにもかかわらず、個人投資家の平均リターンは3%であるというものだ。

その差は何なのか? 3%は何処へ消えたのか? それは、ネイピア氏によれば、それは買いと売りのタイミングだという。

ネイピア氏は次のように述べている。

平均的な投資家は多くを望みすぎている。

彼らがが何をやるか? 彼らは株式をずっと持ち続け、株式市場のリターンをすべて得るわけではない。彼らは株式市場が良いリターンを出した年が続いた後に参入して、株式を買う。

だが株式のリターンは平均に回帰する。

株式のリターンは平均に回帰する。それはサイコロでも同じだ。6が5回連続で出たからといって、6がたくさん出ることを期待して参入すれば痛い目に遭うだろう。

だが株式の場合はサイコロよりも更に状況が悪い。何故ならば、サイコロの場合は前回6が出たことは次に6が出ない理由にはならないからだ。

しかし株式の場合は、1つの株式から投資家が得られるリターンは、究極的には有限である。1つの株式から得られるリターンの総量は、その企業が創業から廃業までに獲得する税引き後利益の総量である。

だから、ある年に株価が大きく上がったことは、最終的には有限となるリターンの総量を先食いしたことにほかならない。だから前年に株価が上がったことは、翌年以降のリターンが悪くなる原因となってしまうのである。

過去の高リターンは未来の低リターン

だからネイピア氏は次のように言っている。

良いリターンが続いた後には、恐らく悪いリターンが続く。30%下落すると言っているのではない。6%ではなくなると言っているだけだ。

話は簡単である。結局、同じものを買うならば安いほうが良いということだ。昨日100円だったりんごが200円になっていても誰も喜ばない。しかし去年100円だった株価が200円になっていると買いたいと思う投資家が大量に存在している。

結局その株価が300円になるとしても、200円で買った投資家は100円で買った投資家よりも損をしている。結局150円になるとすれば、200円で買った投資家は赤字である。

当たり前ではないか。だが誰も気づかない。それこそが群集心理である。日常生活で誰もやらないようなことを、他の人がやっているというだけの理由でそれをやるようになるとき、それこそが群集心理なのである。

だから株価がこれまで上がっているという理由で買っている投資家は、まさにその理由により過去のリターンを得られない。彼らは必ず市場が一番良い状態の時に入ってくる。だが「良い」とは「高い」という意味である。

また、「株価が上がっている」という理由で株を買い始めた人には更に悪いニュースがある。ネイピア氏は次のように言っている。

そして逆のことも言える。リターンが悪くなったとき、彼らはそこで売ることが多い。

その時こそ買うべきなのに。

もし株式を買った理由が「株価が上がっている」ことであるならば、株価が下がってしまえば持っている理由がなくなるということである。

将来のリターンを自分の頭で計算できる人はその限りではない。今の状況がどうであろうとも、将来のリターンを信じられるのならば、暴落した株式を持ち続けられる。

だが過去のリターンを根拠に株式を買うと、株価が暴落すればその根拠がたちまちなくなってしまう。

例えば筆者は4月の株安で大幅下落したAI関連銘柄のLumentumを大きく買い増した。62ドルの時にこの水準は安すぎると言った。

そしてLumentumの株価は91ドルまで回復している。

ちなみに筆者がこの銘柄を去年最初に推した時、株価は52ドルだった。株価上昇率は単純計算で77%だが、安いところで買い増し、高いところでその分を売っているため、筆者の利益はそれよりも更に大きい。

自分で買った銘柄の将来を自分の頭で考えられるからこういう売買が出来るのである。

結論

話は簡単である。結局、過去のリターンは投資をするための何の根拠にもならず、結局は投資家は自分で未来を予測できなければ儲からない。

多くの人々は「未来を予想しなければならない」という重責から逃げるために群集心理に走り、何も考えずに株式を買うのだが、結局は金融市場にいる限りその責任からは逃げられないのである。

過去のリターンは未来のリターンとは何の関係もない。サイコロの例で言えば、株式市場はサイコロとは違って常に状態が一貫したサイコロではないからである。

Bridgewaterのレイ・ダリオ氏が著書『世界秩序の変化に対処するための原則』において国家の興亡を長期スパンで解説しているのは、恐らくそのためだろう。

50年前のアメリカと今のアメリカは違う。30年前の中国と今の中国は違う。だから今の米国株や中国株のパフォーマンスは、過去の米国株や中国株のパフォーマンスとは違ったものになるだろう。

そして数十年で国家は別物になる。それがダリオ氏の著書で歴史的に検証されていることだ。19世紀の人々は、これからも大英帝国は栄え続けると思っていただろう。今、現代人も同じような幻想を見ている。

投資家はどうすれば良いのか? ネイピア氏は次のように述べている。 

だから投資は控えめに考えることだ。それが6%のリターンへの近道だ。

6%が確実に得られると言っているわけではない。しかし控えめに考える投資家の方が、間違ったタイミングで売買するリスクが少なくなる。


世界秩序の変化に対処するための原則