引き続き、The Solid Ground Newsletterのラッセル・ネイピア氏の、The Society of Professional Economistsによるインタビューである。
今回は政府債務とインフレ、そしてゴールドの関係について語っている部分を取り上げたい。
インフレと紙幣の価値
紙幣の価値が危うくなっている。インフレとはそういうことである。紙幣があってもものが買えなくなる。同じ紙幣で昔はもっと多くのものが買えたのに、今では同じ量の米は買えない。
それが金価格が高騰している理由である。政府の紙幣印刷で紙幣を持っているとインフレでどんどん価値が目減りしてゆくので、政治家が勝手に印刷できないゴールドに投資家は資金を移しているのである。
金価格はここ2年で50%以上上がった。

政府による紙幣印刷
紙幣は政府が自由に印刷することができる。それが紙幣の価値が減っている理由である。
そして歴史的にみれば、紙幣の価値下落という長期トレンドから逃れられた紙幣は存在しない。エゴン・フォン・グライアーツ氏は次のように言っていた。
すべての紙幣はその本質的な価値へと返ってゆく。つまりゼロだ。
政府の借金が政府が自由に価値を減らせる紙幣で行われていることは、冷静に考えれば馬鹿げたことである。何故か人はそれに気づかないのだが。
それで人々は紙幣で資産を積み上げ、その価値を政府によって減らされてゆく。
金本位制の復活
元々、紙幣とはそこまで馬鹿げた制度ではなかった。紙幣は元々ゴールドの預かり証だったからである。人々は中央銀行にゴールドを持っていき、それを預けた証拠として紙幣を受け取った。
人々は紙幣を中央銀行に持っていけばいつでもゴールドを返してもらえるはずだった。だが中央銀行は1971年、預かっていたはずのゴールドを返さないと宣言した。ニクソンショックである。
だが人々は本当にただの紙切れになった紙幣をなぜかその後も使い続けている。
この奇妙な状況を終わらせる一番簡単な方法がある。紙幣にゴールドの裏付けを取り戻すこと、つまり金本位制を復活させることである。
人々は金本位制を過去の遺物のように思っているが、少しでもまともな理性の持ち主なら今の紙幣の方が馬鹿げた仕組みであることが分かるはずだ。
だが金本位制の復活はありそうにないとネイピア氏は言う。彼は次のように述べている。
金本位制の復活は一番あり得ないシナリオだ。先進国の債務はGDP比で極めて高い水準に達している。政府は債務をインフレで帳消しにするために金融政策に柔軟さを欲しがっている。今はそういう状況だ。
ネイピア氏のあまりにはっきりした物言いが面白い。政治家はインフレで借金をなかったことにしたい。第1次世界大戦後のドイツが戦後賠償金をそうやって支払ったように。
そしてそれで一般の預金者たちの資産が紙切れになっても政治家がどうしてそれを気にするだろうか。
インフレ政策をやめるために必要なこと
だからインフレ政策は止まらない。結局、政府支出の削減を謳ったイーロン・マスク氏のDOGE(政府効率化省)も、トランプ大統領との喧嘩別れで終わってしまった。
莫大な政府債務に対処するには他に方法はないのか。なぜ政府から紙幣印刷能力を取り上げる金本位制のような制度は実現不可能なのか。
ネイピア氏は次のように言っている。
債務を抑えるにはオーストリア学派の経済学が言うような別の方法もあるが、それは政治的に受け入れられない。
世界がいきなりオーストリア学派の経済学者によって運営されるようになったら、金本位制も戻ってくるかもしれないが、世界は実際には民主的に選ばれた政治家によって運営されている。
現金給付や補助金に慣れてしまった人々は、それが最終的には自分に破滅をもたらすということに気づけない。政治家には有難いことだが。
インフレ政策が終わるとき
フリードリヒ・フォン・ハイエク氏に代表されるオーストリア学派の経済学者たちは、インフレ政策が最終的には国民に大きな損失を与えるということを主張し続けてきた。
そしてアルゼンチンではついに、オーストリア学派の経済学者そのものが大統領になった。ハビエル・ミレイ大統領である。
ミレイ氏は政府の省庁を大幅に削減し、アルゼンチンにハイパーインフレをもたらしていた莫大な政府支出を大幅に削減、短期的な景気後退をもたらした代わりに政治家の官僚主義を一層し、政治家による無駄から解放されたアルゼンチン経済は今や5.8%の経済成長を誇っている。
だがなぜアルゼンチン国民がインフレ政策に見切りをつけ、一時的な痛みを受け入れ、ミレイ大統領を選ぶことができたかと言えば、アルゼンチン国民が長らく続いたハイパーインフレにもう本当に嫌気がさしたからである。
結論
結局、人々はインフレ政策に本当に懲りなければインフレ政策を止めることができない。ミレイ大統領のもとでのアルゼンチンの高い経済成長は、逆に言えばその残酷な事実を物語っている。
日本人は少しずつ自民党に嫌気がさしているが、まだまだ本当の意味でインフレ政策の本質を理解したとは言えないだろう。
だが少しずつ、インフレ政策をずっと批判し続けてきたオーストリア学派の経済学者の言葉は人々に聞かれ始めている。
20世紀の大経済学者であるハイエク氏は、政府から紙幣発行の独占権を取り上げるべきだと論じた著書『貨幣発行自由化論』において次のように言っていた。
人類の歴史は大まかにいってインフレの歴史であり、インフレは政府によって政府の利益のために引き起こされた。
通貨の歴史を研究する者なら誰でも、政府が2000年以上もの長い間、人々を騙して搾取するために通貨を恒常的に使ってきたことをなぜ我慢しなければならなかったのかと疑問に思うことを避けられないだろう。
この言葉が日本人の耳にもまともに響く日がいつか来るのだろうか。今こそハイエク氏らオーストリア学派の経済学を読み直すべきなのである。