引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏のCNBCによるインタビューである。
今回はドルと米国債の見通しに言及している部分を紹介したい。
米国債の利払い問題
アメリカでは、コロナ後の金利上昇によってこれまでほぼゼロ金利だった大量の米国債に多額の利払いが発生している。
このままでは米国債の発行過多で買い手不足となり、米国債はいずれ下落してゆくことになる。
トランプ大統領はそれを避けたい。だが財政赤字を減らす緊縮財政はやりたくないらしい。
それでどうするか? 来年5月に退任するFed(連邦準備制度)のパウエル議長の後任に金融緩和させ、金利を下げさせようということである。
ガンドラック氏は次のように述べている。
トランプ大統領は明らかに利下げをするFedの議長を望んでいる。それで米国債の利払いを抑えようとしている。
2026年に非常にハト派のFed議長が就任し、同時に財政赤字が巨額だという状況があるので、金利は急落する可能性が高い。
金利を無理矢理にでも下げなければ、アメリカの財政が回らない状況が生じている。
アメリカ売りの始まり
アメリカの状況はどれだけ差し迫っているのか。ガンドラックは今年4月の株価急落時に起きたことについて次のように説明している。
2010年頃からS&P 500が10%以上調整する局面は13回あった。その内今年を除く12回では、S&P 500が下落するとドルは上がった。
今回、3月と4月にS&P 500が調整したとき、ドルは8%ほど下落した。いつもならS&P 500が調整すればドルは8%ほど上昇する。
こんなことは少なくとも現代において起こったことがない。
ドルと米国債が資金の避難所として認識されている限り、株価が急落すればドルと米国債は上がる。2008年のリーマンショックの時もそうだったのである。
だが今年の株安では米国株とドルと米国債がすべて同時に下落する局面があった。
経済学者ラリー・サマーズ氏はこれをまるで発展途上国の相場のようだと言った。ドルと米国債がもはや安全資産だとは認識されていないのである。
ドルの長期的下落予想
金融市場の投資家たちは、明らかに米国債の利払い問題を深刻なものだと捉えている。トランプ氏もそれを認識していて、それを金融緩和で解決するつもりである。
だからガンドラック氏は、ドルの下落を長期トレンドだと考えている。
ガンドラック氏は次のように述べている。
ドルは長期的な下落トレンドにあると思う。ドルはこれから大きく下がってゆくだろう。
ドル指数のトレンドを2010年か、それより少し前まで遡ってみると、ドル指数はこれまでの底値2つを繋いだライン上にある。
ドル指数のチャートを見てみると、現状では長期的な上昇トレンドにある。

だが、ドル指数のチャートは現在地から崩れ落ちればもはや上昇トレンドとは呼べない位置に来ている。
そしてガンドラック氏はそれがこれからのシナリオだと予想しているのである。
ガンドラック氏は次のように続けている。
だからFedが利下げをしてヨーロッパと日本が利下げしないのであれば、ドル指数は下落を続けてそのトレンドラインを割り、そこから大きく下落してゆくことになるだろう。
ドル下落の米国債への影響
だがガンドラック氏のアメリカ売り予想はここでは終わらない。ドルの下落は米国債の下落に繋がるからである。
ガンドラック氏は次のように述べている。
そしてそれは超長期の米国債にとっても良いことではない。
どんな海外投資家が、ドルが下落している時にドル建ての債券を買いたがるのか?
ドル売りが米国債売りに発展する可能性は、元々ゾルタン・ポジャール氏が予想していたものである。ポジャール氏は次のように説明していた。
世界はドルやユーロの次へと移行しようとしている。人民元やインドルピーやアラブ首長国連邦のディルハムの役割がもっと大きくなってくる。
こうした状況の結果として一番重要なのは、米国の資金調達が困難になるということだ。
人々がドルを持たないということは、米国債を持たないということである。そして結局は中央銀行が紙幣印刷で米国債を買い支えなければならなくなり、ドルが更に下落してゆく。
結論
アメリカの財政赤字に関する現状を見れば、ドルの長期的下落はもうどうしようもないことのように思える。
レイ・ダリオ氏はそれがアメリカ破綻の道だとして、そのシナリオを予想するために新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)まで書き上げている。日本語版はないが、英語が読める人は読んでおくべきだろう。
ここからドルが下落を免れるシナリオはあるのだろうか。あるならば教えてもらいたいものである。