引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏の、Modern Wisdomによるインタビューである。
今回は世界各国のパワーバランスと国連などの国際機関について語っている部分を紹介したい。
戦後の世界秩序
アメリカが覇権国家になってから100年近い年月が過ぎた。ダリオ氏は次のように述べている。
1945年、戦争が終わり、アメリカが覇権を握った。
今生きている人は大部分が戦後生まれなので、ほとんどの人はアメリカが覇権国家ではない時代をまったく知らないということである。
いや、それどころか、戦争直後のアメリカの状況さえ知っている人は多くない。そして、戦争直後のアメリカと、今のアメリカはかなり違うのである。
ダリオ氏は次のように説明している。
アメリカは世界中のゴールドの80%を保有し、世界のGDPの半分を占め、軍事力は圧倒的だった。
アメリカの時代
1945年からアメリカの時代が始まった。それは、形式的には国連やその他の国際機関の時代に見える。ダリオ氏は次のように述べている。
国連ができ、国会のように世界中の国々がそこに集まった。そして更にIMFや世界銀行やWHOのような国際機関ができた。
国連に行って各国が話し合い、医療に関することならばWHOが各国の規範を決め、自由に貿易できるようにWTOがルールを決め、国家間で揉め事があれば国際司法裁判所に行って判断を仰ぐ。
しかしダリオ氏は次のように続けている。
だがそれは機能しない。
何故か。実際には、世界各国は国連や国際機関に従っていたわけではないからである。世界各国はアメリカに従っていたに過ぎない。アメリカが国連をやると言ったから国連が出来たのであり、他の国が言い出したとしても何も起こらなかっただろう。
だからダリオ氏は次のように言っている。
力がすべてだ。「WTOに行って貿易関係について判断してもらい、その判断に従おう」などと誰も言わない。誰も国連に対しても同じようなことをしない。
アメリカの覇権とその衰退
それでも国際機関は戦後何十年かは形式上機能しているように見えた。だがそれは実際には、アメリカの覇権が機能していたに過ぎない。
ダリオ氏は次のように言っている。
昔ならば、アメリカはほぼすべての国に対して「あれをしろ、これをしろ」と言うことができ、相手もそれを受け入れた。受け入れないことを恐れたからだ。
だが、ダリオ氏は今はそうではないと言っている。アメリカが弱くなったのか? それもある。コロナ後に金利が上がったため、アメリカは予算の多くを米国債の利払いに奪われており、軍事費に回せる資金が限られている。
だからスコット・ベッセント財務長官はアメリカの財政問題を覇権の問題だと言っている。
だがそれだけではない。そもそも戦後の状態が特殊なのである。
ダリオ氏が指摘するところによれば、第2次世界大戦が終わった後、アメリカが強かっただけでなく、アメリカ以外のすべての国が疲弊していた。アメリカは世界大戦に遅れてやってきたに過ぎなかったが、イギリスもフランスもドイツも日本も満身創痍だった。
だから、アメリカの覇権とはアメリカの強さだけではなく、他国の弱さによっても成り立っていたのである。
それが、戦後に新たな秩序が一定期間発生する要件である。
しかし他の国はいずれ回復し、アメリカだけが強い時代はいずれ終わる。それはアメリカが必ずしも弱くならない場合にもそうであり、覇権とはもともと期間限定のものなのである。
覇権の終わり
ダリオ氏はヨーロッパ諸国・アジア諸国の戦後の状態と今を比較して次のように言っている。
今はどこの国に行っても現代的で輝いていて経済が活発で競争力がある。
そして同時にアメリカが自由に軍事費を政府支出できない状況に陥っている。
そして、アメリカと他の国との差が縮まってくると、これまでアメリカの横暴に耐えていた国が少しずつ反逆を始める。それがアフガニスタンをタリバンに明け渡さなければならなかったアメリカの現状であり、またウクライナに関してアメリカに異を唱えたロシアなのである。
また、一番最初にダリオ氏は覇権の条件としてゴールドを大量に持っていることを挙げていたが、それは諸外国がアメリカに価値を認めない時代においてはドルを持っていることに意味はないからであり、現物資産を持っていることが強国の条件だからである。
ジョニー・ヘイコック氏は次のように言っていた。
すべての中央銀行が現在ゴールドを外貨準備として増やしているわけではない。増やしているのは東側諸国の中央銀行だ。
中国、ロシア、インド、ブラジル、トルコ、これらは一部で、西側の国もある。だがゴールドを買っている中央銀行の多数派は東側の中央銀行だ。それは西側から東側への権力の移行なのだ。
このように、覇権には寿命がある。そして覇権を前提とした世界経済のサイクルにも寿命がある。
だからダリオ氏は次のように言っている。
そして今、各国の力関係が揺らいでいる。
結論
だから筆者はいつも言っているのだが、覇権の寿命ということを考えれば、米国株はこれまで数十年上がり続けたからこれからも永遠に上がり続けるという論理は、隣の山田さんは80年生き続けたからもう80年いけると考えることと全く同じなのである。
重要なのは、サイクルを考えることである。例えばアメリカの前に覇権国家だった大英帝国やその前のオランダ海上帝国がどのようにして終わったのかを知っていれば、アメリカについても同じように見えてくるものである。
それはダリオ氏の著書『世界秩序の変化に対処するための原則』に詳しく解説されている。大英帝国の時代に生きていた人も、まさか大英帝国が終わるとは思っていなかっただろう。同じことなのである。