引き続き、ウォーレン・バフェット氏が師と仰ぐ経済学者ベンジャミン・グレアム氏の著書『賢明なる投資家』から、1970年代の物価高騰時代における株式のパフォーマンスを予想している部分を紹介したい。
インフレの時代の投資方法
『賢明なる投資家』は1949年に出版された本だが、グレアム氏は1973年に出版された版の序文で、当時始まりかけていた1970年代のインフレについて語っている。
1973年、インフレは既に始まっており、人々は物価の上昇、つまりはドル紙幣の価値下落を大きな問題だと感じていた。
グレアム氏は当時の金融市場の雰囲気について次のように説明している。
ドル紙幣の購買力が下がったこと、そしてそれが将来更に下がるのではないかという恐れ(投機家にとっては希望)が、ウォール街の思考に大きく影響を与えている。
まさに今と同じように、当時の相場は長年低インフレの時代が続いた後のいきなりの物価上昇だった。
それで人々は、今と同じように、紙幣の価値が減っていくのであればどうすれば良いのかと考えていた。
主要な投資には2つある。株式に投資をして値上がりと配当から利益を得るのか、債券や預金から金利収入を得るのかである。
そしてインフレの始まった時代、グレアム氏によれば人々は次のように考えていた。
金利収入を得る人は生活コストの上昇で苦しむことになるのは明らかだ。
一方で、株式の保有者はドル紙幣の購買力低下は株価と配当の上昇によって補われる可能性がある。
明らかに見えるこれらの根拠から、多くの金融の専門化が次のように結論している。債券は投資の対象として明らかに好ましくない。そして株式はその本質から言って債券よりも好ましい投資対象だ。
今言われていることとほとんど変わらないのではないか。預金していては駄目だ、インフレに勝つためには株式に投資をしなければならない。インフレの初期において、当時も同じだったのである。
グレアム氏の債券推し
だが驚くべきことに、グレアム氏はかなり確信に満ちた言い方で次のように言っている。
読者諸君は、仮に株価がどれだけ上がっていて、債券の金利に比べて株式の配当がどれだけ低いかという事実を考慮しなくても、そうした状況とは関係なく、一番質の高い株式でさえ、債券よりも良い買い物にはなり得ないと理解できるだけの知性があるに違いない。
グレアム氏が1973年に株式を全否定している。この主張は、今インフレで株式に投資している人に対して逆説的に響くように、当時インフレで株式に投資しなければならないと思っていた人々にも逆説的に響いただろう。
だがグレアム氏の主張には根拠がある。当時、インフレという「新しい」現象に誰もが慌てていた中で、グレアム氏は次のように言っている。
1965年以来のインフレと同じ規模のインフレは、アメリカにとってまったく新しい現象だろうか?
優れた投資家は、新たな相場に直面したとき、似たような相場が過去になかったかどうか調べる。資産価格がこれからどうなるかの参考になるからである。
そしてグレアム氏は、1915年から1970年までに起こったインフレ相場を調べた後、当然のようにこう言っている。
まずすぐに分かることは、インフレは過去にもあった、しかもたくさんあったということだ。
インフレはまったく新たな現象ではない。ほとんどの人に歴史の知識がないだけである。そして、誰かがインフレで株価が上がると主張するのであれば、その人は少なくとも実際にそうなった事例を持ってくるべきだろう。
だがグレアム氏は過去の事例を分析して次のように述べている。
インフレとともに株価や企業利益が上がっているという事実はない。
明らかな例は1966年から1970年の最近の例だ。生活のコストは22%の上昇と、戦後以来最大の上がり方をしているが、株価と企業利益は1965年から全体的にむしろ下がっている。
インフレと株価の関係
グレアム氏は、インフレで株式を買うべきだと主張する人々に対し、次のように皮肉を言っている。
こうした主張は、何年か前によく聞いた反対の主張と同じくらい馬鹿げて聞こえる。金利収入を得る方が株式より安全だというものだ。
日本では特にそうだったが、何故かデフレで低金利の時代にほとんどの人は株式を買いたがらず、デフレによる金融緩和で株価は大きく上がったが、人々は今度はインフレで金利が上がると預金は嫌で株式が買いたいと言う。
だが、考えてみれば当たり前だと思うのだが、デフレの時代に何十年も株価が上がったのは金利が低かったからであり、金利が高くなる時代の株価のパフォーマンスがどうなるかと言えば、短期的な上下動はさておき、長期的にはそれは明らかである。
端的に言えば、何十年もの金融緩和で株価が上がり続けてから株式を買うのではなく、その前に株式を買っておかなければならなかったのである。当たり前ではないか。
今年、4月に株価が激しく変動した時に経済学者のラリー・サマーズ氏が言っていたことが思い出される。
金融市場で投資家が犯す大きな間違いのほとんどは、昨日やっておくべきことを今日やることによって起きる。
そしてもう金利は上がっている。そして今、人々は金利収入より株価の値上がりが欲しいらしい。
グレアム氏の予想
1973年、これから1970年代のインフレ相場に本格的に入ってゆく中で、グレアム氏は次のように言っている。
米国株は過去55年よりも良いパフォーマンスになりそうだと信じられる十分な理由があるだろうか? この重要な問題に対するわたしの答えは、明確なノーだ。
これは、過去数十年のデフレの時代における株価の値上がりを根拠に、インフレの時代にも株式を買おうとしている人に対する明確な警告である。
そして1970年代のインフレ相場における株式のパフォーマンスはどうなったか? グレアム氏はまったく正しかった。
そしてドル預金を続けて金利収入を得た人は、高金利によって少なくともインフレによる紙幣の価値下落分を補うことが出来たのである。
結論
皮肉なことに、インフレ対策で株式を買っている投資家が祈るべきことは1つである。インフレが再燃して金利が上昇し、株価が下落するような状況にならないことである。
グレアム氏の『賢明なる投資家』はバリュー投資の聖書として知られるが、バフェット氏が今も実践しているように、バリュー投資とはいつどんな状況でも割安な株式を盲目的に買うことではない。
ここに書かれているグレアム氏の思考は、ほとんどグローバルマクロ戦略と同じである。要するに、投資で儲ける方法は1つしかない。市場と経済を予想することである。