ジョージ・ソロス氏: アメリカのドル安政策が1987年のブラックマンデーを引き起こした

今回の記事では、世界的なヘッジファンドマネージャー、ジョージ・ソロス氏の著書『ソロスの錬金術』から、ドル相場のバブル崩壊が1987年のブラックマンデーを引き起こした様子を解説している部分を紹介したい。

レーガノミクスとトランプ相場

前回までの記事で説明したように、1980年代のレーガノミクスの時代は、2025年のトランプ相場に似ている。

1970年代の物価高騰のあと、財政赤字と金利高がもたらしたドル高政策が限界に達し、アメリカが日本やドイツなどとドル安を目指し協調介入することを決めた1985年のプラザ合意に繋がった。

トランプ政権も、コロナ後の財政赤字と高金利のあとに、長らく続いているドル高のトレンドを自ら壊そうとしている。

ドルが下落した後どうなるのか。1980年代の事例では、ドルの下落が止まらなくなった。巨額の財政赤字にもかかわらずアメリカへの資金流入が続いていたのはドルが上昇していたからであり、レーガン大統領はそのトレンドに自分で終止符を打ったのである。

トランプ政権も同じことをやろうとしている。

1987年ブラックマンデー

そしてその結果金融市場に何が起こったか? 1987年のブラックマンデーである。ソロス氏はブラックマンデーの原因について次のように述べている。

振り返って考えれば、株価暴落を引き起こした一連の出来事を説明することは容易だ。株価バブルは過剰な資金流入によってもたらされ、流入する資金の減少が株価下落の前提条件を作った。

しかし流入する資金が1987年になぜ減少したのかは、より難しい問題だ。詳しく調査しなければはっきりとした答えは出せないが、1つだけ明らかなことがある。ドルの価値を守ろうとする合意が重要な役割を果たしたということだ。

ドル高を生み出した高金利と財政赤字の政策が限界を迎え、レーガン政権はプラザ合意で日本やドイツとともにドル安誘導を行ったが、今度はドル安が止まらなくなったため、アメリカはルーブル合意で各国とドル防衛の合意を取り付けた。

だがこのルーブル合意が上手く行かなかった。ルーブル合意はアメリカが金融引き締めを行い、日本とドイツが金融緩和を行うことでドル高に導こうとするものだが、1970年代の物価高騰時代の直後であることもあり、特にドイツがアメリカのために金融緩和をすることを嫌がったのである。

ソロス氏は次のように書いている。

日本とドイツの金融当局がドルを守るための介入がインフレ圧力になることを懸念し、マネーサプライを引き締め、それが世界的な金利上昇に繋がったのかもしれない。

これはソロス氏がブラックマンデー直後にその原因を分析しようとした文章だが、今から考えればこの説明が当たっているだろう。

結局、ドイツはインフレ再発の可能性を嫌がって9月に利上げを行なった。これにより、アメリカはドイツマルクに対してドル高を導くためには従来より更に大きな利上げを行わなければならなくなった。

だが利上げはアメリカ経済を減速させ、株価を下落させる。だからアメリカは自分が利上げするよりも他国に利下げさせようとしたのだが、それが上手く行かなかったのである。

ソロス氏は次のように続けている。

為替介入のため、アメリカは日本とドイツが行なった以上の利上げを行わなければならなかった。アメリカ当局はそれほどの金融引き締めを嫌がった。

ただでさえ株式市場が下落しているのに、利上げすればそれが加速する。しかし利上げしなければドルが暴落する。

それでアメリカはどうしたか? ソロス氏は次のように説明している。

株式市場の下落が続く中、ジェイムズ・ベーカー財務長官がドルを下落させないためにドイツに利下げするよう圧力をかけているとの報道があった。

もはやアメリカとドイツの協調が完全に破綻していることが読者にも分かるだろう。そしてこの話は更に泥沼に嵌ってゆく。アメリカが開き直ったのである。

ソロス氏は次のように続けている。

そんな時に日曜のNew York Timesにセンセーショナルな記事が載った。アメリカの財務官僚たちがドル安を公に容認し、株価の下落はドイツ人のせいだと批判したのである。そのことによって株価の下落は加速した。

金融市場はこの状況をどのように判断したか。日米独が協調してドル高に持っていくシナリオは完全に破綻したと思っただろう。更には当時、株式投資において為替ヘッジが今ほど使われていなかったことを思い出したい。

つまり、米国株に投資している海外投資家は、利上げになっても利下げになってもドルか株価か少なくともどちらか、悪くすれば両方が下落する状況が確定したわけであり、つまりどちらにしても損失は避けられない状況となったわけである。

この状況で株式投資家が取るべき行動は1つしかない。米国株の売りである。そして株価はこうなった。

結論

この問題の根本原因は、それまで財政赤字にもかかわらずレーガン大統領が「強いアメリカ」を演出出来ていたのは、ドル高によりアメリカへの資金流入が続いていたからだということである。

だがひとたびドル高がドル安に転換し、財政赤字が米国債から投資家を逃避させる原因となり始めると、すべてが逆転し始める。

だからFed(連邦準備制度)に金融緩和を強要するトランプ大統領は、この時と全く同じ危機の引き金を引こうとしているのである。

以上、ソロス氏の『ソロスの錬金術』からレーガン大統領のドル安誘導がそれまでの高金利・高成長相場を逆転させ、ブラックマンデーを引き起こした様子を紹介した。トランプ相場とドルの行方を予想したければ、ブラックマンデーについての知識は必須だろう。


ソロスの錬金術