ガンドラック氏、インフレが落ち着いたのに景気後退が来ていない理由を語る

DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏が、デイヴィッド・ローゼンバーグ氏との対談でアメリカのインフレについて語っている。

コロナ後の現金給付

株価の上昇や金価格の暴騰ばかり話題になっているが、今回は少し長期的なアメリカ経済の動向に視点を戻してみよう。

コロナ後の現金給付によってアメリカ経済には多額の資金が注入された。それは、市中に存在する現金や預金の総量を表すマネーサプライのグラフによく表れている。

コロナ後に急激に増加したことが分かる。マネーサプライはその後Fed(連邦準備制度)の金融引き締めによって減少しているが、Fedが金融引き締めを止めた影響で2024年に入ってから上昇トレンドを再開している。

今ではFedは利下げを再開している。

マネーサプライの推移

ガンドラック氏は、上記のマネーサプライの推移について次のように言っている。

マネーサプライは数年前にマイナス成長になった。それは普通、景気後退が来ることを意味する。だが今回はそうならなかった。

マネーサプライは市場に供給された資金量を意味するので、それが短期間に大幅に下がったということは、アメリカ経済から大量の資金が抜き取られたことを意味する。

だから、そのようなマネーサプライの減少があれば、普通は経済は景気後退になるのである。

だが、上のチャートを長期的に眺めている人には、そのマネーサプライの推移でアメリカ経済が景気後退にはなりそうもないということが理解出来るだろう。

ガンドラック氏は次のように言っている。

何故ならば、コロナのロックダウンの時に米国経済に注入された資金があまりに莫大だったので、多少マネーサプライが減っても高い水準にあることに違いはなかったからだ。

マネーサプライは上がって下がったのであり、単に下がったわけではない。むしろ、トータルで見ればやはり大きく上がっているのである。

それが、1年などのスパンで見ればマネーサプライの大幅減少だと言えるにもかかわらず、アメリカ経済がまだ景気後退に陥っていない理由である。

そして、ここからが重要なのだが、ガンドラック氏はCPI(消費者物価指数)についても次のように言っている。

そして同じことがCPIにも言える。

アメリカのインフレ動向

CPIはどうなっているのか。同じ時期のグラフを見ると次のようになっている。インフレ「率」ではなく物価そのものである。

さて、コロナ後に物価の上昇率が上がったことは、グラフが急になったことから分かる。アメリカのインフレ率は9%程度まで上がった。その後インフレ率は2%台にまで戻っており、グラフの勾配が2023年頃から緩やかになっていることからもそれは読み取れる。

だが、注目してもらいたいのは、勾配が元に戻ったからといって、コロナ後に上がった物価が元に戻ったわけではないということである。ガンドラック氏は次のように言っている。

今や物価は2%上昇のトレンドから大きく上ぶれしているために、今後5年でそのトレンドに回帰しようと思えば、物価はむしろデフレにならなければならない。

アメリカ経済が好調の理由

要するに、インフレは収まったわけではない。物価の上昇率、つまり上のチャートの勾配は元に戻ったが、日本人も実感しているように、スーパーに並んでいる商品の値段がコロナ前の水準に戻ったわけではない。コロナ後に高くなった物価は高くなったままである。

だから、「インフレ率が戻った」「インフレ率が9%から2%まで下がった」ことを理由に、それほどインフレ率が下がったのだから経済にもダメージがあるだろうと考えるならば、次のことを念頭に入れなければならないだろう。

コロナ後の緩和を本当の意味で無かったことにするためには、インフレ率ではなく物価水準そのものが元に戻る(つまりデフレになる)ような金融引き締めをやらなければならないのである。

だから、インフレ率が2%に戻ったからといって、コロナ後のアメリカの金融政策が極めて緩和的であることに変わりはないのである。だから株価も金価格も上がり続けている。