日銀がYCC変更で長期金利の上昇を許容、日本も金利上昇による景気後退へ

12月20日、日本銀行は金融政策決定会合の結果を発表し、長期と短期の金利を操作するイールドカーブコントロールにおいて、長期金利の変動幅を目標値(ゼロ金利)の「プラスマイナス0.25%程度」から「プラスマイナス0.5%程度」に変更した。

日本の長期金利はインフレを受けて長らく上限の0.25%に張り付いていたので、その上ブレを許した形で、実質的な利上げである。

金融緩和の終わり

これは2013年のアベノミクス以来行われてきた日銀の金融緩和の終焉である。日銀は緩和によって金利を低く保ってきたが、ついに金利を低く保つことができなくなった。

何故できなくなったかと言えば、最初の理由は円安である。ドル円のレートは最近になって下落を始めているが、それまで今年のドル円相場は急激な上昇が話題になっており、財務省と日銀は長期的に無意味な為替介入によってドル円の上昇(つまり円安)を止めようとした。

ドル円が上昇すれば、輸入物価がどんどん高くなり、日本人は海外の製品が買えなくなる。日銀が金融緩和をしてきた理由の1つに、円安になれば海外から見て日本の製品が安くなるので数字の上では輸出で儲かるというものがあった。だから紙幣を刷りまくって円の価値を薄め、円安にしようというわけである。

だがこうした考えのリフレ論者が見落としていることが1つある。その戦略によって、価値が薄まった円で換算すれば儲かっているように見えるかもしれないが、ドルなど海外の通貨を基準に考えれば、外国人が日本の製品に払っている対価(つまり日本人が得ているもの)は別に何も変わっていないということである。

例えば1ドル=100円の時に600万円(=6万ドル)の日本車があり、6万ドル持っている外国人が購入を考えているとしよう。

これが円安になり、1ドル=120円になったとする。600万円の日本車は、ドル換算では6万ドルではなく5万ドル(=120円 x 5万)になる。予算が1万ドル余ったので、ついでに軽自動車も買えるかもしれない。

これで日本人は自動車だけでなく軽自動車も売れたと喜ぶかもしれない。だが実際には、元々6万ドルを日本車1つと交換していたものを、円安によって同じ報酬で日本車と軽自動車をセットで譲り渡す羽目になっただけで、得をしているのは外国人のほうである。

一方で日本円の価値が下がるので、日本国民は外国の製品が買えなくなる。円安の何が良いのか誰か説明してくれないだろうか?

円安政策という自殺行為

円安によって得をしているのは、同じ対価で多くの日本製品を手にする外国人である。それが円安の意味である。

だが2013年に自民党によって円安政策が開始されて以来、こんな簡単な誤謬に誰も気が付かなかった。円安は単なる自殺行為である。だが誰も気が付かなかった。

そして円はどんどん安くなっていった。それは円から見たドルの値段が上がるということなので、2013年以降どれだけ円の価値がなくなったかは、ドル円がどれだけ上がってきたかを見れば分かる。

通貨安の意味にようやく気付いた日本人

円安が日本人にとって何の得にもならないという事実は、上で説明した通り2013年から何も変わっていなかったが、日本人は10年近く経過した2022年になってようやくそれに気付いたらしい。恐るべき頭の回転の速さである。

今年に入ってからのドル円上昇は、ドルの金利が上がり、高金利に惹かれた投資家がドルを買ったというドル高の側面も勿論ある。だが例えば世界的に見ればユーロも今年下落した通貨の1つだが、日本円はそのユーロに対しても下落(ユーロ円は上昇)している。今年のユーロ円のチャートは以下である。

それどころか今年日本円はインドネシアルピアなどの東南アジアの通貨と比べても下落しており、円がドル以外の通貨に比べてもどれだけ下がったかということである。

その原因は海外の要因ではなく日本国内の要因にある。そしてその要因とは、インフレが問題になっている現状においてさえ、日銀がインフレを目指して金融緩和を継続してきたということである。黒田氏は一体何を目指していたのか。

いまだにインフレを目指していた日銀

世界中が物価高騰に苦しみ、日本人もついに始まった物価高に喘ぎ始めた2022年、平均的な日本人の年収の何倍もの報酬を貰いながら黒田総裁が何を目指してきたかといえば、インフレを引き起こすことだった。

そしてインフレは起きた。おめでたいことである。彼らはずっとインフレを目指してきて、自民党に投票した有権者はそれを支持してきたのだから、喜んで当然の結果ではないのか。

もうここでは何度も言っているが、インフレとは物価高のことである。それ以上の意味は一切ない。辞書を引いてほしい。インフレとは物価高のことである。日銀はそれを目指し、実際にインフレになった。そうしてようやく日本人はインフレとは物価高という意味だということを理解した。

ちなみに何故日銀がそれを目指してきたかということは、まだあまり理解されていない。

あまりに大きなコストに対し、得られた学びがそれだけだというのは、あんまりではないか。それが自民党と日銀の撒き散らした完全なデマを無批判に信じたことの対価である。

日銀は今やそれを巻き戻そうとしている。インフレではなくデフレを引き起こすために長期金利を上昇させようとしている。

マクロ経済学上、インフレとは供給過少・需要過多を意味し、デフレとは供給過剰・需要過少を意味する。簡単に言い直せば、インフレとはものが足りないこと、デフレとはものが余っていることである。

前者の方が良いというデマを流したのは誰か。20世紀の大経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏は、それがデマであるということを何十年も前に警告していた。だが正しい意見は決して主流にはならない。人々は間違った意見を自分から求めてゆく。

結論

ということで、今日は日本が無事にインフレターゲットを達成した記念すべき日である。おめでたいことではないか。お陰で消費者はものが買えなくなり、日本円は長期的にどんどん価値がなくなり、日本経済は沈んでゆくだろう。

世界最大のヘッジファンド創業者のレイ・ダリオ氏の予想通りである。

ところで一部の人が言っていたように、日本のインフレは「コストプッシュインフレ」なので金融引き締めは必要ないのではなかったのか? マクロ経済学の完全な素人である黒田氏を虐めるのも、ここまでにしておこう。