ポジャール氏: アメリカは金利上昇に耐えられず量的緩和を再開する

元クレディスイスの短期金利戦略グローバル責任者ゾルタン・ポジャール氏が、Bitcoin 2023におけるインタビューで、金利上昇と量的緩和の再開について語っている。

金融引き締めか金融緩和か

アメリカは2022年、インフレを抑制するために大幅な利上げを開始した。アメリカの政策金利はゼロから5%まで上がった。

アメリカの金融政策はこれからどうなるのか? 金融引き締めはこれからも続くのだろうか。だが金利を5%まで上げたことで、アメリカ経済にはヒビが入り始めている。例えばシリコンバレー銀行の破綻に始まる銀行危機の問題である。

このままアメリカ経済にはヒビが入り続け、最終的にはFed(連邦準備制度)は引き締めを諦めて緩和に逆戻りしなければならなくなるのか、あるいはインフレは止まらず、金利は更に上がってゆくのか?

ポジャール氏は前回の記事ではインフレが簡単には収まらないことを予想していた。

では高金利の継続を予想しているのかと言えば、少なくとも長期的には違うようだ。彼は次のように予想している。

量的緩和は再開されるというのが従来からのわたしの予想だ。

金融緩和再開への道筋

ちなみに緩和再開の兆しは既に表れている。シリコンバレー銀行が破綻したとき、ジェフリー・ガンドラック氏は次のように指摘していた。

インフレ政策が戻ってきている。Fedは資金の貸出制度を通じて銀行システムに資金を注入している。去年の8月か9月からのパウエル議長のインフレ打倒の決意はもう何処かへ行ってしまったようだ。

銀行が破綻したとき、Fedは銀行に対して資金を注入した。それは要するにFedが紙幣を印刷してそれを市中に投げ込んだわけだから、それは実質的には量的緩和である。

ポジャール氏もFedのこの対応に驚いたらしい。彼は次のようにコメントしている。

銀行危機に対するFedの対応は驚くべきものだ。危機を防ぐことにこれほど積極的になっているFedをわたしは見たことがない。

危機は本来起こらなければならないものだ。そもそも現状のインフレ危機はコロナ後の現金給付によって起きているので、それを紙幣印刷で防ごうとすれば、火に油を注ぐようなものだ。

だが紙幣印刷で銀行を救済してしまえば短期的には問題が解決したように見えるので、2m以上先が見えない人にはそういう解決法が好まれるのである。

借金増大のツケ

しかしそうして借金は積み上がってゆく。それが国債という形であろうが、中央銀行が印刷した紙幣という形であろうが、誰かの負債は誰かの資産なので、政府が大量にばら撒いた紙幣や国債を保有している人が何処かに居て、いつかそれを使って何かを買うことを計画している。

しかし大量に紙幣や国債を増やしても、それで買えるものが増えるわけではない。ものの量は生産性を上げなければ増えない。

ものに対して紙幣や国債が増えすぎたのである。それはつまり、紙幣や国債は実質的には既に紙切れになっているということを意味する。既に存在している紙幣や国債をすべて使ってものを買おうとすれば、明らかにものが足りなくなるからである。

だからあなたがたの銀行口座に入っている紙幣は、実はすべて使えるわけではない。すべての人がそれを使おうとするとものが足りなくなる。だがほとんどの人は自分の銀行口座に入っている紙幣を頼りにしているはずである。

既に紙切れになっている紙幣

政府は紙幣や国債をばら撒き、世の中に紙幣はあるが、ものはない状態を作り出してしまった。だからインフレが起きているのである。紙幣に対してものが足りないからである。

だから政府はこれから、国民に対して「実はあなたの銀行口座に入っている紙幣はそんなに価値がないんですよ」ということを納得してもらう必要がある。

だからポジャール氏は言う。

これは究極的には政府がどのようにマネタイズされるかという問題だ。

政府がばら撒いてしまった本当は価値のない大量の紙幣と国債をどうするのかという問題である。この意味で国民は皆時限爆弾を抱えている。政府によって抱えさせられている。

利上げによる債券価格下落

また、大量の国債がばら撒かれているということは、利上げによって国債の価値が下落すれば、ダメージを受ける人が大量にいるということである。

事実、シリコンバレー銀行は保有していた国債価格の下落によってダメージを受けた。そして国債の下落によってダメージを受けているのは、シリコンバレー銀行だけではない。

だからポジャール氏は、中央銀行はインフレを抑制できる水準まで金利を上げることができないと予想する。彼は次のように述べている。

Fedは量的緩和を再開して金利の上昇にフタをしなければならなくなる。

金利上昇による資産価格下落の問題は、アメリカだけではない。ポジャール氏は次のように続ける。

日本は利上げをしていないが、それでも日本人は多くの外国債を持っている。こうした問題は隠れているが何処にでもある。

イギリスでも「ミニ予算」のせいで長期の英国債が売り浴びせに遭い、年金基金がダメージを受けた。

イギリスではトラス前首相がばら撒き政策を行おうとしたことで英国債が急落する事件が起きた。

インフレに対処するために金利を上げて経済危機を引き起こすのか、経済危機を引き起こさないために緩和をしてインフレと通貨暴落を引き起こすのか、もはやどちらかしかないのである。

ポジャール氏は次のように述べている。

こうした問題は金融システムに存在しており、金利がどれだけ上がれば誰がどの程度ダメージを受けるか、商業不動産セクターの問題はどうなるか…。こうした問題は引き続き表面化し続けるだろう。