ガンドラック氏: コロナ後の緩和による好景気はそろそろ終わり、米国経済は減速する

DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏がFOX Businessのインタビューで、アメリカ経済の現状と今後の見通しについて語っている。

銀行危機後の米国経済

前にも書いたが、アメリカ経済はFed(連邦準備制度)の利上げによく耐えている。今年の前半には高金利が原因でシリコンバレー銀行などの地方銀行がいくつか破綻したが、Fedが急遽紙幣印刷をして救済措置を行なったことで、その後もう何ヶ月も銀行破綻は起きていない。

そのことについてガンドラック氏は次のように述べている。

更なる銀行破綻があるのではないかと思ったが、2ヶ月の混乱のあと、問題はかなり落ち着いたようだ。

そうなった理由はと言えば、上に書いた紙幣印刷である。Fedは元々インフレ打倒のために量的緩和で膨らんだマネタリーベースを縮小する量的引き締めを行なっていたが、預金者救済のために大量の紙幣印刷を同時に行なったため、マネタリーベースは一時増加に転じていた。

マネタリーベースの増加は即ち量的緩和である。Fedは銀行救済のために実質的に量的緩和を行わなければならなくなった。それが恐らく、ここ数ヶ月の株高の理由でもあったかもしれない。当時、ガンドラック氏は次のように述べていた。

これはインフレ政策だ。そしてそれはもしかすると短期的にリスク資産にプラスかもしれない。リスク資産はインフレ政策と中央銀行のバランスシート拡大が大好きだからだ。後者はもう長い間選択肢になかったものだ。

そして実際、米国株は上がっている。この時のガンドラック氏の指摘は正しかったのだろう。

だが米国株にとって悪い知らせは、マネタリーベースの増加は銀行危機の収束によって終了し、最新データでは再び減少に転じているということである。

終了する緩和マネー

ガンドラック氏は次のように言う。

アメリカ経済は転換期に来ていると思う。

何故か。ガンドラック氏は、アメリカ経済が利上げにもかかわらずここまでもった理由に言及する。それは市中に存在する預金と現金の総量であるマネーサプライである。マネーサプライ(M2)は次のように推移している。

ガンドラック氏はこのチャートについて次のようにコメントしている。

M2は1年前に比べると減少している。多くのマネタリストたちはそれを理由に今年の第2四半期までには景気後退しているはずだと考えた。だがM2は1年前よりも減少しているが、2、3年前と比較すると大きく増加している。

これは元々クォンタム・ファンド出身のスタンレー・ドラッケンミラー氏が以下の記事で指摘していたことである。

だがこのマネーサプライも来年前半にかけてコロナ前の水準まで戻ってゆく。資金は引き揚げられて行っているのである。

余剰貯蓄

また、ガンドラック氏は他の指標にも言及する。

1月前半に「余剰貯蓄」のことを笑いの種にした。人々は「余剰貯蓄」はまだ多く残っていると言っていたが、「余剰貯蓄」とは何だ? 貯蓄とは何が違う?

余剰貯蓄というのは、コロナ禍の現金給付などの政策によって積み上げられた家計の貯蓄のことである。Fedなどがそれを分析するレポートを発表している。

アメリカ経済が利上げにもかかわらずここまでもったのは、マネーサプライなどでも分かるように現金給付などによる政府の資金供給が、2023年になった今でもまだ経済のなかに残っているからである。

だがガンドラック氏によれば、そのお金も消え去りつつある。彼はこう続けている。

だが経済統計は大きく変化した。多くのデータがここ数ヶ月で急速に変化している。「余剰貯蓄」も遂にマイナスになろうとしている。だからコロナ後の緩和はもう完全になくなろうとしているということだ。

コロナ後に経済に注入された馬鹿げた金はもう消え去っている。

出来上がったのは危険なカクテルだ。

危険なカクテルとは、政府による資金注入によって甘やかされた消費者の振る舞いと、緩和マネーが消え去りつつあるという事実の組み合わせである。ドラッケンミラー氏がリーマンショック以来の金融緩和を振り返って次のように述べていたことを思い出したい。

資金があふれかえると人々は馬鹿げたことをする。資金が11年もあふれかえると人々は本当に馬鹿げたことをする。

ガンドラック氏はこう説明する。

コロナ後、人々は「賃料を払う必要はない」「奨学金を返済する必要はない」「政府からお金が受け取れる」と言われた。そして生活習慣をその状況に適応させた。

そして今、政府から供給されていた資金は底を尽きた。だから今度は彼らは借金を増やしている。

クレジットカード経由の借金はここ数ヶ月でかなり増えている。

アメリカ人はクレジットカードの支払い残高をためるのが大好きである。筆者は何の理由もなくクレジットカードをリボ払いにしていたアメリカ人を知っている。彼女曰く、「今払わなくても良いならその方が良いじゃない」だそうである。

コロナ禍における政府の緩和や支払い猶予がなくなっても、クレジットカードが馬鹿騒ぎを延長した。そして今や祭りが終わろうとしている。

ガンドラック氏はこう続ける。

家賃を支払わなくて良かった期間、彼らは恐らく浮いたお金を生活水準をアップグレードするために使った。

そして政府から来た資金が尽きた時、彼らは家賃を払わなければならなくなるが、自分が大量に借金していることにも気付くことになる。

そして家賃の支払いだけではなく、クレジットカードの支払いに金利を乗せなければならなくなる。

税金の支払いも再開される。わたしの住むカリフォルニア州では2022年の税金をまだ払わなくて良いことになっているが、その期限が10月15日に来る。

ニューヨーク州などの他の州では2022年の税金を収める期限が最近来た。

人々は突然お金がないことに気付くだろう。

結論

馬鹿騒ぎもそろそろ終わりである。筆者はマネーサプライの推移から、景気後退は来年前半にかけてだと予想し続けている。ガンドラック氏も同じくらいのタイムフレームを考えているらしい。彼はこう述べている。

アメリカ経済はここから6ヶ月から8ヶ月ほどで壁にぶつかるだろう。そして各種金利の支払いのために消費者の活動が止まる。

米国株はどうなるか? 株価の推移については以下の記事で既に解説しているので、そちらを参考にしてもらいたい。