米国株が完全に割高である理由と株価の推移予想

アメリカで長期金利が上がっている。誰も大して気にしていないことだが、前回の記事でも言ったように、高金利こそが今年前半の銀行危機を引き起こしたのである。

それは銀行危機の継続を意味しているのに、誰も気にしていない。だが今回の記事では株式のファンダメンタルズについて話してみよう。

米国株の動向

米国株は2022年に下落し、その後上昇に転じた。S&P 500のチャートは次のようになっている。

下落の原因は前回の記事で説明したように長期金利の上昇である。

株安の原因となった長期金利が2022年の高値近辺にあるのに、株価が回復しているところに注目したい。

前回の記事で説明したように、これだけ見れば2022年の高金利で下落した株価が、今長期金利が同じ水準まで戻っているのに高値で推移していることは不合理に見える。

企業利益の推移

だが、株価に影響するもう1つの主な要因がある。企業利益である。こちらも考えなければ株価の動向は見えてこない。

そこで、S&P 500の1株当たり純利益を並べてみると次のようになっている。

  • 2022年3月: 197.91ドル
  • 2022年6月: 192.26ドル
  • 2022年9月: 187.08ドル
  • 2022年12月: 172.75ドル
  • 2023年3月: 175.17ドル
  • 2023年6月: 181.17ドル(予想値含む)
  • 2023年9月: 187.59ドル(予想値)
  • 2023年12月: 200.52ドル(予想値)

これは未来の数字を含んでいるので、当然予想値が含まれている。筆者の感覚では、直近2023年9月の数字はそれほど大きな誤差はなく大体当たるが、数ヶ月後の12月の数字はそれほどはあてにはならない。

だが最近の株価上昇は、金利は上昇しているのだから、1株当たり純利益の予想値が回復していること(及び株式投資家の楽観)に起因している。

企業利益の動向予想

だが企業利益はそれほど都合よく回復するだろうか。そもそも2022年から2023年にかけてS&P 500の企業利益が下落した理由は何だっただろうか。

企業利益が下落した原因は、これもまた高金利である。マクロ経済学的には、GDPの構成要素のうち企業利益に直結するのは投資と純輸出であって、例えば消費は企業利益と直接の関係性はない。

つまり、直感に反するかもしれないが、消費が増えてもそれだけでは企業利益は増えないのである。

また、投資と純輸出を比べると、規模で言えば投資の方が圧倒的に大きいので、基本的に投資が企業利益を決めるということになる。

そして例えば企業が設備投資を行なう場合、多くのケースではお金を借りて投資を行なうことになる。よって金利が高いか低いかが企業の投資意欲を大きく左右する。だから投資は金利で決まる。そして企業利益は投資で決まるので、高金利こそがそもそも企業利益が2022年に減少を始めた理由である。

上で数字を挙げたように、企業利益は回復の兆しを見せている。だがそれは、最近減速の気配を見せた住宅価格と同じではないのか。

住宅価格も金利上昇によって下落に転じた後、一度金利が下がったことで再上昇したが、最新のデータでは最近の高金利によって減速している。

それは金利の推移に沿った動きである。金利はまた以前の水準まで上がっている。

だから、足元の企業利益の回復が、金利が一時的に低下したことによる回復なのだとしたら、金利はまた上がっているのだから、住宅価格のようにまた減速に転じると考えるのが妥当だろう。

また、米国企業の海外の売上や資産についても、金利上昇によるドル高にマイナスの影響を受けるはずである。

結論

だから、金利上昇は株価にとって2つの意味で重荷となる。1つには、安全資産とされる10年物国債の金利が4%を超える中、リスク資産である米国株はそれを超えるリターンを10年間出し続けなければ投資家にとって魅力を失う。

そしてもう1つが、今回の記事で説明した高金利の企業利益への影響である。こちらについても、金利は同じように上がっているのだから、企業利益もまた下がると考えるのが自然だろう。

だが仮にそうならないとしよう。アナリスト予想のようにS&P 500の1株当たり純利益は200ドルに向けて回復してゆくとしよう。その場合、株価の下落前と下落後における長期金利と1株当たり純利益はどうなっているか。

  • 株価: 4,800ドル -> 4.500ドル(やや下落)
  • 1株当たり純利益: 197.91ドル -> 200.52ドル(ほぼ変わらず)
  • 長期金利: 1.5% -> 4.2%(大幅上昇)

おかしいではないか。誰も疑問に思わないのか? 誰がこの水準を妥当だと説明できるだろうか。そしてそもそも、上記の考察では1株当たり純利益が回復するという前提さえあやしいのである。だから実際には米国株は上記の数字で見て感じる以上に割高だということになる。

投資家は楽観を続けられるかもしれないが、今年の後半から来年の前半にかけて、アメリカ経済は減速を始める。失業率や住宅価格にその兆候が表れ始めている。

そして何より、銀行危機を引き起こした水準まで金利が再び上がっているのだから、その水準の高金利が来年前半まで続けば、高確率で銀行危機のような新たな危機が何処かのセクターで起きるだろう。

何度も言うが、米国株の長期上昇トレンドはもう終わった話である。

米国株は今年の後半から来年の前半に2回目のピークを迎える。それは先月の高値がピークであった可能性を排除しないが、アメリカ経済の減速は緩慢だから、また高値を更新する可能性もある。だが、結局重要なのは長期的見通しである。