レイ・ダリオ氏: 金利を上げた米国でも低金利を続ける日本でも債務危機は生じる

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、サウジアラビアで行われたFuture Investment Initiativeで高金利と世界経済について語っている。

買い手のいない米国債

アメリカで米国債の買い手不足が問題となっている。

アメリカではコロナ後に債務が膨らみ、しかも金利が上がったことで国債に対する利払いも増えたので、アメリカ政府は資金調達のため大量の国債を発行している。

だが買い手が見当たらない。これまで国債を買い支えていたFed(連邦準備制度)は量的引き締めで国債の保有量を減らしている。銀行も国債の価格下落で苦しんでいる状態で、国債を買い支える余裕がない。

ダリオ氏は次のように述べている。

債務が大きくなるとき、債券を売らなければならないが、誰が買ってくれるのかを理解しておかなければならない。買い手が十分に集まらないとき、買い手は思った値段で買ってくれず債券を投げ売りしなければならなくなる。

債券にとって価格下落は金利上昇を意味するので、それで長期金利が急騰している。それが米国株の下落の原因となっている。

巨額の債務がついに金利上昇という形で問題となっている。政府債務の増加は問題ないと言っていた馬鹿は誰だったか。

ユーロ圏の債務問題

だがそれはアメリカに限った問題ではない。ダリオ氏はヨーロッパについてもコメントする。

ヨーロッパで起きていることを例に取ってみよう。

利上げをしなければならないとき、イタリアの債務の利払いには何が起こるだろうか?

ユーロ圏でもインフレと利上げが起こっているが、ユーロ圏はそれに加えて独自の問題を抱えている。

共通通貨ユーロを持つユーロ圏では、各国が独自の金融政策を取ることができない。政策金利はECB(欧州中央銀行)によって一律で決められる。

しかしユーロ圏の国々のインフレ率はまったく異なっている。例えばオーストリアではインフレ率は7.4%と高いが、オランダでは0.2%とほとんどデフレに落ちかかっている。

この状況で、オーストリアにもオランダにも適切な政策金利など存在しない。低インフレ国に金利を合わせれば高インフレ国には低すぎ、高インフレ国に金利を合わせれば低インフレ国には高過ぎる。

この状況は無茶苦茶である。ユーロ圏はインフレとその後の景気後退でほとんど空中分解するだろう。

ここまでは筆者がこれまで指摘してきたユーロ圏の問題だが、ダリオ氏はイタリアの利払いに言及している。利上げの影響が各国の債務残高によって違うことに言及したいのだと思う。

例えば、政府債務がGDPの50%の国で金利が1%上がれば、年間の利払いは50%の1%なのでGDPの0.5%分だけ金利の支払いが増えることになるが、政府債務がGDPの100%の国で金利が1%上がれば利払いの増加はGDPの1%分である。

具体的に言えば、ドイツの政府債務はGDPの67%だが、イタリアの政府債務は145%である。ちなみにギリシャは177%である。債務残高の多い国ほど利払いの増加に苦しむことになる。

ユーロ加盟国の経済格差はインフレと利上げによってますます深刻化するだろう。このトレンドに賭けるため、筆者は超長期でユーロスイスフランを空売りしている。これは筆者のポジションの中でもっとも長期のものである。

日本の債務問題

一方で、インフレに対して金利をほとんど上げていない国がある。日本である。

ダリオ氏は次のように述べている。

日本の金融政策はどうなっているだろうか。完全に異なる金融政策だ。しかしそれもトレードオフだ。

人々が長年望んできたインフレは起きた。不思議な話だが、それで人々は慌てている。インフレに良いも悪いも存在しない。インフレと経済成長は無関係である。金本位制でゼロインフレでも産業革命は起こったではないか。当たり前の話なのだが誰も気付かない。

だがどちらにしてもインフレは起きた。アメリカのように利上げで対応する国もあれば、日本のような国もある。自由にすれば良い。ダリオ氏によれば、どちらもトレードオフなのだから。

何故トレードオフなのか。利上げを行なった国では金利高騰と景気後退が起きる。行わなかった国では通貨が暴落する。

ダリオ氏は国債保有者の観点から次のように述べている。

それは国債自体の価格下落で国債の価値がなくなるのか、通貨の下落によって国債の価値がなくなるのかの問題だ。だが、どちらにしても価値は下がらなければならない。

海外の投資家の観点から考えてもらいたい。アメリカのように利上げで国債の価格が下落しても、日本のように国債の価格下落を抑える代わりに日本円の価値が暴落しても、日本国債を保有する海外の投資家にとっては同じことである。

結論

ほとんどの日本人は円建てでしかものを考えることが出来ないので、日本円で価値が下落していなければ価値が下落していないと思いこむ。

だが現実は迫ってくる。IMFの見通しでは日本のGDPは円安で減価したことによってドイツに抜かれ世界4位になるという。個人的には更なる凋落は近いと考えている。

もっと身近な話で言えば、インフレで日本人がものを買えなくなる中、円安で日本は安い国だと感じる外国人旅行客が自由に日本のものを買い漁っている。日本人が東南アジアの国々を安い国だと思っていたのと同じである。日本はそういう国になりつつある。

一方で日本人は日本円を持っていても海外からものを買うことができない。自国民に厳しく、外国人に優しいのが円安政策である。通貨安政策は完全な自殺行為だということを以下の記事で分かりやすく説明したにもかかわらず、日本人の大半は未だに理解していない。

アメリカのように利上げで国債が暴落しようが、日本のように低金利で通貨が暴落しようが、同じことである。

元々の元凶であるインフレ政策を行なってしまった時点で、対価を支払うことは決まっている。自分の選択の結果なのだから、好きな方の結果を受け入れれば良いだろう。