ジョージ・ソロス氏、米国株の空売りと米国債の買いで景気後退トレードか

機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fの季節がやってきた。まずはジョージ・ソロス氏が保有しドーン・フィッツパトリック女史が運用するSoros Fund Managementのポートフォリオを紹介しよう。

2023年の米国株

今年の米国株は、前半は去年の株安から立ち直りを見せたものの、後半に入ってからは不安定な動きを見せている。米国の主要株価指数S&P 500のチャートは次のように推移している。

原因は米国債に買い手がおらず、金利が上昇していることである。

米国株空売り継続

この状況を読んでいたのがソロス氏(あるいはフィッツパトリック氏)である。

Soros Fund Managementは前回の開示(6月末時点のポジション)で、S&P 500とNasdaq 100の下落に賭けるプット・オプションの買いを行なっていた。

S&P 500に関しては2.4億ドル分、Nasdaq 100については3.1億ドル分のポジションとなっていが、その後ソロス氏のポジションはどうなったか?

今回(9月末のポジション)の開示では、S&P 500への賭けが解消され、代わりにNasdaq 100の下落に賭けるプット・オプションのポジションが5.0億ドル分に増額されている。

ソロス氏はハイテク株の下落を予想しているのだろうか。一方で個別株の買いポジションではGoogleの親会社Alphabet(1.8億ドル)やAmazon.com(1.0億ドル)などハイテク株が目立つため、買いポジションとの釣り合いを保つためにプット・オプションの方もNasdaq 100に集中したのかもしれない。

ソロス氏、景気後退を予想か

また、今回大幅に買い増しされた興味深いポジションが、超長期米国債ETF(NYSEARCA:TLT)のコール・オプション2.2億ドル分である。コールはプットとは逆で、価格上昇に賭ける取引である。

上でも述べたように、現在株価が不安定になっているのは金利上昇が原因である。アメリカの長期金利は次のように推移している。

債券にとって金利上昇は価格下落を意味するので、国債(特に長期側の国債)は下落していたことになる。ソロス氏はそれを買い向かった。

金利上昇と株価の不安定化は、まさに下げ相場が始まる前の兆候である。いずれ相場が本格的に景気後退を織り込んでゆくと、これが金利低下と株価の下落の組み合わせに変わってゆく。2018年の事例が一番分かりやすい。

このポジションから推測すると、ソロス氏は金利の上昇が金利の低下へと移行することを予想し始めたらしい。債券投資家ジェフリー・ガンドラック氏と同じ読みである。

一方で、ソロス氏のかつての部下で、フィッツパトリック氏の先輩にあたるスタンレー・ドラッケンミラー氏は、以下の記事で説明したように短期金利の下落と長期金利の上昇に賭けている。

長期側は買い手不足の問題が継続し、景気後退となってもそれほど金利は下がらないというのがドラッケンミラー氏の読みである。

結論

ソロス氏とフィッツパトリック氏は、アメリカ経済に弱気な見方を継続しているようだ。

一方で、プット・オプションの買いはSoros Fund Managementが下落相場の開始直前に取るポジションであり、下落相場が本格的に始まってからは買いポジションをもっと減らしてプット・オプションではなく単純な空売りで株価下落に賭ける傾向がある。

また、景気後退が2024年にずれ込むということを去年の時点で言い当てていたのが他ならぬフィッツパトリック氏なのである。

こうしたことを考えると、Soros Fund Managementは現在上げ相場の天井を探っている最中なのだろう。

株価の下落は景気後退の半年ほど前に起きることが多い。ドラッケンミラー氏などは2025年の景気後退をメインシナリオとしているので、長期金利に対する見方の違いは景気後退のタイミングの違いによるものかもしれない。