大勢のイギリス保守党支持者が3ポンド払って労働党党首選で極左のコービン氏に投票、再選出へ

イギリス労働党の党首選が非常に面白い事態となっている。タイトルの通りなのだが、順を追って説明しよう。

先ず、イギリス労働党の現党首ジェレミー・コービン氏は2015年6月6日の党首選で労働党党首に選ばれた政治家である。コービン氏はカール・マルクスへの共感を表し、大学無償化、鉄道国有化、公営住宅建設などの社会主義的政策を全面に押し出しながら緊縮財政に反対するという無謀な経済政策から当初は泡沫候補として扱われていたが、蓋を開けてみればコービン氏は約6割もの支持を集めて労働党党首に選出された。

この結果には労働党の政治家を始め多くの人が驚いたものだが、コービン氏がこれほどの圧勝であったのには理由がある。笑ってしまうのだが、その理由の一つが「労働党員のふりをして党首選に投票した保守党の支持者」なのである。

労働党の党首選

しかし、労働党の党首選に保守党の支持者が投票するなどということが可能なのか? それを可能にしてしまったのが前回の党首選から導入された新ルールである。

この新ルールは労働党の前党首ミリバンド氏によって導入されたもので、党首選をより民主的なものにすべく、登録された労働党員がそれぞれ一票を支持する候補者に投じる仕組みとなった。

しかしここで問題となったのが登録の容易さである。3ポンド払えば誰でも登録して一票を投じることが出来るようになってしまったため、政敵である与党の保守党の支持者が3ポンド払って、総選挙に勝てそうもない極左のコービン氏を労働党の党首にしてしまったのである。The Guardian(原文英語)によれば、ある保守党支持者などは6月の党首選でコービン氏に一人で3回投票したという。

外野で聞いていると笑ってしまうのだが、この制度はこのまま継続していて、9月24日に明らかになる次の党首選の結果もこの制度に影響されるそうで、ロイターは次のように書いている。

党首選で投票資格を持つ約64万500人のうち、半分以上は昨年党員となった。昨年5月以前からの党員は68%がスミス氏を推しており、コービン氏の支持者は32%にすぎない。ところが、昨年5月から9月にかけて党員となった人でみると、スミス氏支持は28%に減っている。

一体どのような集団が新たに登録をしてコービン氏を支持しているのだろう? 全くの謎ではないか。想像も付かない。勿論皮肉である。

コービン氏排除に必死の労働党

労働党はこのままでは選挙で保守党に勝てないため、コービン氏ではなく対立候補のオーウェン・スミス氏に投票するよう呼びかけているが、呼びかける相手が保守党支持者では聞く耳など持たないだろう。ロイターは以下のように伝える。

英スコットランド労働党のケジア・ダグデール党首は、労働党党首選を控え、ジェレミー・コービン現党首の元では次の選挙に勝利できないとして対立候補のオーエン・スミス下院議員を支持するよう呼び掛けた。ロンドンのサディク・カーン市長も21日、同様の意見を表明していた。

また、このほかに労働党はコービン氏の不信任案を圧倒的多数で可決したが、この不信任案には強制力がないためコービン氏はそのまま党首の椅子に座っている。

世論調査によれば、このままではコービン氏が支持を増やして再選する可能性が高いという。メイ新首相率いる保守党は労働党の混乱をよそにEU離脱決定後の重要な政局を好きにできることになり、漁夫の利を得ている形である。政治はいつも茶番だが、ここまでの茶番はあまりないのではないか。久々に笑覧できる政治ニュースであった。