ガンドラック氏、米国利下げが必要となる理由を語る

DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏が、Pensions & InvestmentsのインタビューでFed(連邦準備制度)がこれから利下げしてゆく根拠について語っている。

アメリカの利下げ

アメリカではインフレ退治のために金利が大きく上げられ、その後インフレ率は下がってきたのでFedは利下げを考えている。市場では今年の利下げが何回になるかが議論されている。

だが今回の記事では利下げが必要な理由をもう少し厳密に考えてみたい。ガンドラック氏はこう説明している。

Fedが利下げをしたがっているのは、景気後退が理由ではない。実質金利がかなり高くなっているからだ。

インフレ退治のために利上げしたので、インフレ率が下がってきたら利下げを考えるわけだが、重要なのはインフレ率単体ではなく、インフレ率と金利の関係性である。

それを考えるのが実質金利である。実質金利とは名目の金利からインフレ率を引いたものである。金利は次のような式で計算される。

  • 実質金利 = 名目金利 – インフレ率

適切な実質金利

トルコやアルゼンチンのように、金利が高くともインフレ率がそれより高ければ金融政策としては緩和的ということになってしまうので、金利の実体経済への影響を考える時には名目金利がインフレ率よりどれだけ高いか、つまり実質金利がどれだけ高いかを考える必要がある。

そしてガンドラック氏が指摘するように、実質金利は高くなっている。現在のアメリカのインフレ率は3.3%まで下がってきているが、政策金利は5.25%なので、差し引きの実質金利は現在2%ということになる。リーマン・ショック後、実質金利は長らくマイナスだった。

さて、問題はインフレ率が下がって政策金利がそのままになる場合、上の式を見れば分かるが実質金利はインフレ率の低下によって上昇してしまうということである。

つまり、政策金利を同じ水準に維持し続けてもインフレ率が下がれば実質金利が上がり、金融政策は引き締め的になってしまうのである。

だから1970年代のアメリカの物価高騰を1980年代に退治したポール・ボルカー議長は、インフレ率が下がれば名目金利も下がるようにし、政策金利を維持したのではなく実質金利を高い水準で維持したのである。1980年以降のインフレ率と政策金利を並べてみると、インフレ率の低下に従って政策金利も下がっていることが分かる。

インフレ率は下がるのか

だからインフレ率が下がるのであれば、政策金利も下げなければ引き締めすぎになってしまう。それがガンドラック氏の論点である。彼は次のように言う。

インフレ率が下がってきているので、Fedは景気後退という理由がなくとも利下げできる。歴史的水準と比べて実質金利が高いからだ。

だがインフレ率はこれからも下がるのだろうか? それが問題である。インフレ率は3%台まで下落した後、足踏みしている。

ガンドラック氏は、インフレ率はこれから下がってゆくと予想している。彼は次のように述べている。

原油価格が上がれば話は別だろうが、原油価格が変わらなければインフレ率は下がる。そして中東情勢以外に原油価格を上げそうなものは見当たらない。

原油価格が変わらなければ、インフレ率は年末までに2%台前半まで下がるだろう。

しかし筆者やレイ・ダリオ氏はそれを疑問視している。

筆者が特に気にしているのは最新の雇用統計で賃金インフレが加速していたことである。賃金がインフレしている状態でどうやって賃金がコストとなるサービスのインフレが止まるだろうか?

結論

インフレ動向については意見が分かれているが、筆者とガンドラック氏が合意できることが1つある。20世紀の大経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏が『貨幣論集』で解説している通り、経済に何のダメージもなくインフレだけが都合よく減速してくれることは有り得ないということである。

例えば雇用統計で明らかになった賃金インフレはどうやって収まるのか? 企業が人を雇うのにお金を払えなくなれば収まる。では中央銀行はどうやって企業が人を雇えなくするのか? 金利を上げて企業の経営を立ち行かなくすれば、中央銀行のインフレ退治は実現される。

だが金利を上げてインフレ率が下がるという、一番最初の原因と一番最後の結果だけを得ることは出来ない。ガンドラック氏は次のように言う。

5.25%の利上げが、他に何も引き起こさずにどうやってインフレ率を下げたと言うのか? 利上げだけが必要で経済の減速は必要ないのか? 失業が起こらなくてもインフレ率は下がるのか? 企業の経営悪化がなくてもインフレ率は下がるのか?

ソフトランディングが不可能だというのはそういう意味なのである。

少しでも考えればハイエク氏でなくとも誰でも分かるような理屈のはずなのだが、誰も考えない。そしてソフトランディングを信じて盲目的に株を買っている。だがインフレ退治の過程で企業はダメージを負う。

何も考えずに買って寝てるだけで儲けたい人が金融市場ではまる罠とはそういうものである。


貨幣論集