原油安は円安要因ではないかもしれない

12月19日、日銀の政策決定会合が開かれ、追加緩和後の金融政策を賛成8、反対1の賛成多数で決定した。

10月31日の追加緩和は原油価格の下落を受け発表された。当時80ドル程度であったWTI原油先物は更に下落を続け、現在55ドル前後まで下落しているが、原油安への黒田総裁の反応は、発言を字義通り受け取れば、追加緩和後の会見時のものとはやや異なるものであった。

会見の映像は上記で観ることができる。原油に関する質疑は9:03、14:00、33:42などだが、重要なものは14:00からの質問への回答である。黒田総裁の発言をいくつか抜粋する。

  • 「石油をほとんど100%輸入している日本にとっては経済を押し上げる効果を強く持つ」
  • 「一方で足元の物価上昇率には、短期的には押し下げ要因として働く」

上記は一般的な見方であるが、下記に注目したい。

  • 前年比で見た影響はいずれ剥落してゆく
  • 「原油価格の下落が経済活動に好影響を与え、基調的に物価を押し上げる要因になりうる」
  • 「やや長い目で見ると、原油価格の下落は物価を押し上げる方向に作用するだろうと考えている」

つまりは、原油価格も一度落ちてしまった以上、1年待てば前年比の物価上昇率に対してはその影響も無くなるということである。日銀が目標としているのは物価上昇率であり、物価そのものではない。したがって、原油100ドルの前年と原油100ドルの当年の比較も、60ドルと60ドルの比較も、物価上昇率に与える影響は変わらない。

共に注目しなければならないのは、日銀が2%の物価目標を「2015年度を中心とする期間」に実現するとしていることである。CPIがいまだ1%台前半で足踏みしている現状からすれば、黒田総裁が念頭に置いているのは2016年3月だろう。原油がシェール産業の損益分岐点である60ドル付近までに落ちたのが2014年11-12月のことであるから、量的緩和の成否を判断する2016年1-3月の前年、2015年1-3月は、既に原油価格が下落した後ということになる。黒田総裁には不幸中の幸いといったところである。

したがって、原油安は日銀に追加緩和を迫る要因とはなりにくいかもしれない。原油安による経済押し上げが物価上昇に寄与するというのも事実である。

しかし、その原油安によるプラスも円安によりかなりの程度軽減され、4月以降はGDPも下振れ気味である。消費増税さえなければすべてが上手く行ったのだろうが、そうは行かないのが政治である。各指標を逐次確認しながら、日銀が2016年3月までに追加緩和をするのかどうかを見定めてゆきたい。