2017年原油価格の推移予想とシェールオイル産業の損益分岐点

アメリカのシェール革命により原油の世界的供給が大幅に増加したことで一度は30ドル付近まで暴落した原油価格も、2016年前半の大底から回復しており、今後の動向が注目されている。

そもそも原油価格が回復したのは、サウジアラビアなどで行われている通常の原油採掘よりもコストのかかるシェールオイルは30ドルの原油価格では採算が取れず、シェール企業が淘汰されることで供給過剰がある程度解消されると予想されたからだが、では現在のように原油価格が反発すればどうなるのだろうか?

2017年後半以降の原油価格推移を予想する上で問題となるのは、米国シェール企業の利益率が原油価格反発後にどうなっているのか、今後供給を再び増やしてゆけるほどの採算になっているのかということである。

それを調べるためには、ここ数年何度も行なっているように、実際にいくつかの代表的な米国シェール企業の財務諸表を覗いてみるのが一番良い。以下に最新のものをいくつか紹介しよう。

2017年第1四半期シェール企業決算

具体的に財務状況を取り上げる前に説明したいのが、シェール企業の企業行動の順序である。

シェール革命とは通常の採掘方法では産出できない地下にある原油や天然ガスを産出するために特殊な採掘機を使う技術革新のことであり、その分通常の採掘よりもコストがかかる。

その採掘のための施設は当然ながら、産出を行う前にシェール企業が初期投資を行なって建てるものなのだが、その建設費用は会計では初期投資を行なった年度に全額は計上されず、膨大な費用が複数年分に分割されて毎年計上されてゆくことになる。

この仕組みを減価償却と言うのだが、シェール企業の財務諸表を見るなかで注意すべきは、この減価償却の費用は実際には初期投資の段階で支払われてしまっているものであり、現在の毎四半期の損益計算書に数字は書かれてはいるものの、実際に現在進行形で支払っている費用ではないということである。

だから、シェール企業は費用のうち減価償却費を除いた、実際に現在出費している実費の部分が売上を上回らない限り、採算が取れる状態になっていると言える。売上を直接左右する原油価格がその水準を下回ると、そもそもシェール企業は採掘施設があっても採掘が不可能になる。これを操業停止点と呼ぶ。

一方で、減価償却費を含めたすべての費用が売上を下回れば、それは初期投資のコストを含めても採算が取れる水準と言え、原油価格がその水準を上回ると、初期投資をしてでも新規参入しようとする企業が現れる。これを損益分岐点と呼ぶ。

さて、ここまで説明した上で2017年シェール企業の決算を紹介しよう。厳密な数字については勿論決算書を確認してほしいのだが、損益計算書の数字のうち、ここでは売上と、そして費用については現在進行系で掛かっている「実費」の部分、初期投資が会計処理で現れているだけの「減価償却」などの部分に大まかに分けて記載している。

先ずは最大手のChesapeake Energy (NYSE:CHK)から紹介したい。数字の単位は百万ドルである。

  • 売上: 2,753
  • 実費: 1,903
  • 減価償却等: 609

減価償却を含めたすべての費用が売上とほぼ均衡している状態にある。2017年1-3月期は原油がほぼ50ドルで推移した四半期なので、Chesapeakeは原油価格50ドルで損益分岐点近くにあるということである。

因みにChesapeakeは昨年から既に債務超過に陥っており、借金によって当面の資金繰りを何とか行なっている。大手のシェール企業で倒産するところが出てくるとすれば、先ずこの企業だろう。

もう一つ、比較的健全なシェール企業の中からPioneer Natural Resources (NYSE:PXD)を紹介しよう。

  • 売上: 1,468
  • 実費: 919
  • 減価償却等: 622

Chesapeakeと同じように売上と全費用がほぼ拮抗している。こちらも50ドルで損益分岐点であると言えるだろう。

原油価格の推移予想

米国シェール企業の現在の現在の損益分岐点はどうやら50ドルであるらしい。これが何を意味しているかと言えば、原油価格がもし50ドルを超えて上昇してゆけば、新たに投資をして採掘を始める企業が出てくるということである。シェール企業の投資意欲の回復については、先日報じた通り、既にアメリカのGDP統計に表れている。

したがって原油価格が仮に60ドルを超えて上昇するなどすれば、中長期的にはシェールオイルの採掘が増えてゆき、供給過剰で原油価格は50ドル付近に引き戻されることになる。

一方で、下限(操業停止点)については2016年の暴落で30ドル以下の原油価格が維持不可能であることが証明されている。シェール企業が悲鳴を上げたからである。既に市場は30ドルを試したということもあり、40ドル以下まで原油価格が下げることは難しく、万一下げたとしても一時的に35ドルまでではないか。

また、2018年にはサウジアラビアの国営産油企業サウジアラムコのIPOが控えている。産油企業の株価はリアルタイムの原油価格に依存するため、サウジアラビアはこのIPOでサウジアラムコの株式を高値で売るために、OPECを通して減産などを仄めかし、原油価格を一時的にでも上昇させようとするだろう。

したがって、ここで考えられる投資戦略は次の通りである。原油価格は中長期的には40ドルから60ドルのレンジで推移するため、原油価格が40ドルに近づけばプットオプションの売り、60ドルに近づけばコールオプションの売りを行う。あるいは、50ドル付近でその両方の売りを行う(ストラドルの売りと言う)ことも考えられる。オプションの売りとは資産価格がレンジ内に収まれば利益の出る取引であり、一方的な方向性のない相場では通常の戦略である。

また、これらの要因に加えて、シリア情勢の悪化による原油価格の短期的上昇の可能性などを考え、そうしたリスクを考慮したポジションをポートフォリオに加える必要がある。

また、原油価格の上昇方向に賭けるためには、原油の買いやエネルギー企業の買いの他に、産油国であるロシア市場の買いを行うことも出来る。ロシア市場のファンダメンタルズは有望だが、トランプ政権がロシアにどう対応するかというリスクは、前述の通りヘッジすることが必要である。

逆に原油価格の下落方向に賭けるのであれば、著名債券投資家のビル・グロス氏などはシェール企業の発行するジャンク債の空売りを推奨している。

原油価格の動向については今後も報じてゆく。