米国株はファンダメンタルズで見て割高ではない

米国株が市場最高値を更新し続けている。トランプ政権は経済政策に関してまだほとんど何もやっておらず、トランプ大統領の政策実行力が危ぶまれる中、米国株だけは上昇トレンドを続けている。

市場では上げ相場の継続を疑う声も出てきているが、ではファンダメンタルズで見た米国株は割高なのだろうか、割安なのだろうか?

そもそも株価の割高割安はどう決まるのか。よく聞かれるのは、P/E(株価収益率)が過去の水準より高いか低いかを調べる方法だが、この方法は相場とは何かを知る人間から見れば完全に間違っている。ノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー氏などがこうした間違いを何度も主張し続けているが、経済学が数学や物理学ほど厳密ではないことを示す良い証拠だろう。

ファンダメンタルズで見た株価水準

では、株価の適正値はどう決まるのか? 先ず考えるべきは、投資にあたって投資家には様々な選択肢が与えられているということである。投資家は、国債、社債、不動産、株式、そして現金など、様々な方法で自分の資産を運用することが出来る。それぞれのリスクとリターンを考えた上で、投資家はどの資産に投資をするか決めることになる。

様々ある資産クラスの中でも指標となるのは国債である。では、米国債の利回りは現在どうなっているのか? 以下に並べてみよう。

  • 1年物米国債: 1.00%
  • 5年物米国債: 1.82%
  • 10年物米国債: 2.27%
  • 30年物米国債: 2.84%

更に、20年物社債と5年物ジャンク債の平均的な利回りを参考のため並べておく。

  • 20年物社債: 4%
  • 5年物ジャンク債: 5.5%

これらが資産としての株式の競争相手である。では、米国株の利回りはどうか? 株式の利回りは、一株当たり利益を株価で割ることで算出できる。投資した金額に対して、その株式は新たな価値を毎年いくら生み出すのかということである。

現在、アメリカの株価指数S&P 500は2500弱で推移しているが、この指数の一株当たり利益(指数を一株して考える)は実績値で105、予想値で137となっている。これを上記の計算式に当てはめると、次のようになる。

  • S&P 500 (実績値): 4.2%
  • S&P 500 (予想値): 5.5%

これを国債や社債と比較すると以下の通りである。

  • 1年物米国債: 1.00%
  • 5年物米国債: 1.82%
  • 10年物米国債: 2.27%
  • 30年物米国債: 2.84%
  • 20年物社債: 4%
  • S&P 500 (実績値): 4.2%
  • S&P 500 (予想値): 5.5%
  • 5年物ジャンク債: 5.5%

それぞれリスクの違う資産の利回りが出揃ったわけだが、予想値を鵜呑みすれば、米国株の立ち位置はこのようなところではないか。魅力的なほど安いわけではないが、過大評価と言うほど高いわけでもない。これが米国株は割高ではないとする理由である。

結論

予想値を鵜呑みすれば、と書いたが、もしトランプ政権と共和党の法人減税が大幅な減税率で実現すれば、利益率改善による利回り上昇効果で、米国株は更なる上昇を見る可能性もある。しかし、以下の記事で報じたように、与党共和党は大幅な減税は難しいと考えているようである。

しかし予想値が下方修正された場合の補填になる程度の法人減税はなされるかもしれない。だから、筆者は現状の米国株を高すぎず低すぎずと見ている。

勿論、国債の金利が上昇すれば、それに対抗して株式の利回りも上昇しなければならず、一株当たり利益が同じ状況で利回りを上昇させるためには、株価が下がらなければならない。

しかし、上記の表を見れば、金利上昇が株価に決定的な影響を及ぼし始めるのは10年物国債の金利が3%に達し、30年物国債の金利が4%に肉薄するか、あるいは40年物か50年物国債が発行されてそれらの金利が4%を超える場合だろう。

ただし、こうしたシナリオは近日中には起こりそうもなく、恐らくは2018年になってから問題となる主題だろう。

ガントラック氏など優れた著名投資家が米国株の調整を警告している。筆者も市場の最近の過度の楽観は危ういと思っているが、米国株をファンダメンタルズに見れば、上記の通りだと言うことである。