JPモルガンCEO: 長期金利は5%まで高騰する可能性あり

アメリカが未曾有の金融引き締めを続けるなか、JPモルガンのCEO、ジェイミー・ダイモン氏が長期金利の更なる高騰を警告している。世界の金融市場を左右するアメリカの長期金利は、2月に3%近くまで上昇したことで世界同時株安を引き起こしているがダイモン氏は5%まで上昇する可能性を示唆している。

長期金利の行方

アメリカの長期金利はドルや日本株を含む世界中の資産価格に影響を与えるため、日本の投資家にとっても重要な指標である。年始からの動きをチャートで振り返ってみると、次のようになる。

長期金利は年が明けるにつれ2.4%程度の水準から2.9%まで高騰し、それを懸念したアメリカの株式市場が急落、それが日本などにも波及し世界同時株安となった。

繰り返しになってしまうが、長期金利とは10年物国債の金利であり、金利が上がればリスクを取って株式に投資をしなくとも、単に国債に投資をして金利収入を得ようと思う投資家が増え、資金が株式市場から債券市場へと流出する。これが長期金利が株式市場にとって重要な理由である。

さて、ダイモン氏はこのように世界同時株安を引き起こしたアメリカの長期金利が更に高騰するという。CNBC(原文英語)によれば、彼は次のように発言している。

現在の状況を考えれば、金利は4%まで上がっているのが妥当だと思う。恐らく5%まで高騰する可能性にも備えた方が良いだろう。その確率は、ほとんどの人が思うよりも高い。

ダイモン氏は何と金利が5%まで上がる確率も低くはないと言う。

3%に達しない状態で世界同時株安を引き起こした長期金利が5%まで上昇すればどうなってしまうのか? しかし、長期金利が3%でも低すぎるという声は、ダイモン氏だけのものではない。著名債券投資家のビル・グロス氏も先月のアメリカGDP統計を受け、Twitter(原文英語)で次のように発言している。

一番のニュースは名目GDPが年率7%、前年同期比でも5.4%の成長だったことだ。10年物国債の金利は2.96%で推移しているべきではない。

因みにこのGDP速報は、筆者が株式市場に弱気転換したきっかけである。

何故GDPが長期金利と関係があるのかと言えば、経済学では長期金利は理論的にはインフレ率と実質経済成長率の和に収束するとされているからである。インフレ率と実質経済成長率の和とはつまり名目GDP成長率であり、名目GDP成長率が5%を越える状況で長期金利が3%に満たないのはおかしいというのがグロス氏の理屈であり、ダイモン氏の主張を裏付ける理論的根拠だろう。

長期金利は上がるのか?

しかしながら、筆者はダイモン氏の予想を信じていない。長期金利は5%まで上がらないだろう。何故ならば、長期金利が実際にそこまで上がる前に、世界中の金融市場が暴落するからである。

実際、長期金利が3%に満たないにもかかわらず、先進国以外の市場は既に暴落している。日本株でも日経平均が見た目上の高値を保っているだけであり、指数に含まれていない株式は既にかなり下落している。世界市場においては、世界経済の景気を反映するとされている銅価格の急落は重要である。

しかし、ダイモン氏は金融市場と実体経済の両方に強気のようである。

経済が躓くようなものは何も見当たらない。実体経済の市況は史上最高と言えるほどに活発であり、金融市場の状態も良い。住宅市場は供給不足で、わたしの予想では住宅ローンはもう少し拡大するだろう。消費者の経済状況も非常に健全だ。だから総合的にかなり良い状態にあると言える。

そして長期金利の上昇は好調な経済を繁栄したもので、害にはならないとダイモン氏は考える。

結論

しかしアメリカの投資家の立場になって考えてみてほしい。既にかなり高値となっている米国株と、5%の金利をもたらしてくれる実質的に無リスクの米国債を並べられた時、どれだけの投資家が株式を取るだろうか? 投資家は株式を売り払って国債に殺到するのではないか?

だからダイモン氏の言う、金利5%と金融市場の好調が両立するシナリオは有り得ない。それはどちらか片方しか成立しない。

しかし、実際にはその両方が実現しないだろうと筆者は踏んでいる。先ず第一に、長期金利が3%でも新興国市場やコモディティ市場は既に荒れており、それどころか本当のところは日本株も影響を受けている。仮に金利がこれ以上上がらなかったとしてもその影響は遠からず先進国の株式市場に及ぶだろう。

そして、株式市場がリスクオフになれば、上記の理屈により資金が株式市場から債券市場に流入し、債券の価格上昇(つまりは金利低下)をもたらすだろう。2008年のサブプライムローン危機において米国債が買われたのと同じである。

だからダイモン氏の予想は2つとも当たらないだろうと筆者は踏んでいる。読者はどう思うだろうか? その結果は、それほど遠くない将来に明らかになるだろう。