ジム・ロジャーズ氏: 中国株は忘れてロシア株を買え

ジム・ロジャーズ氏久々の方向転換と言える。彼のアドバイスはここ何年か、米国株は買うな、ドルは短期的には上がるが長期的には暴落する、そして中国株とロシア株を買えというものだったが、2017年の年明け早々、CNBCのインタビュー(原文英語)でロジャーズ氏が中国株について弱気転換している。

トランプ相場における外国株

2017年は世界の金融相場にとって大きなターニングポイントとなることが予想されており、金融市場は何処も大きな動きが見られるが、そうした中で中国やロシアだけではなく、北朝鮮やカザフスタンまで視野に入れて投資を考えるジム・ロジャーズ氏の投資戦略は耳を傾けるに値するだろう。

話題の中心はトランプ大統領が舵を取るアメリカである。トランプ氏が大統領選挙で勝利したすぐ後に報じた通り、ロジャーズ氏はトランプ政権の経済政策には比較的ポジティブな意見を表明していた。

今や次期大統領がわれわれの前に立っている。そして彼は選挙時とは違うことを言っている。だから彼が実際に何をするのか見てみよう。(中略)彼がもし選挙時の過激な発言とは違うことをし、誰にでもオープンになるのであれば、どうしたことだろう、アメリカは当分の間良い時代を享受することになる。

ロジャーズ氏はトランプ政権による減税やインフラ投資が米国株にとって買い材料だとしながらも、米国株は既に高くなっているとして、その他の国々により良い投資機会があると主張する。

トランプ相場におけるロシア株

ロジャーズ氏が真っ先に挙げるのはロシア株である。トランプ大統領がアメリカとロシアの関係を改善するという見通しから、長年低いパフォーマンスに甘んじていたロシア株に買い場が来ていると主張する。

トランプ大統領の対ロシア政策については、彼の最近のツイート(原文英語、その1その2その3)を引用すれば一目瞭然である。

ロシアと上手くやってゆくことは良いことであり、悪いことではない。馬鹿な人々か道化だけがそれを悪いことだと言う。わざわざ問題を作り出さずとも世界には既に問題が沢山ある。わたしが大統領になる時には、ロシアはアメリカに今よりも敬意を払うようになり、両国は恐らく、世界中の課題について協力して働くようになるだろう。

これまで長年反ロシア政策を取ってきたアメリカが、本当にトランプ大統領の言うような政策を取るとすれば、それは世界の投資家にとって何を意味するだろうか? ロジャーズ氏が着目するのは対ロシア経済制裁の解除の可能性である。

わたしはトランプがロシアに対してポジティブな発言をする前からロシア株に強気だった。そして今、トランプはロシアと親しくすると言っている。そうなれば他のすべての国もロシアへの経済制裁を解除することになるだろう。

ロシアはクリミア併合以来、日本を含む多くの国から経済制裁を受けている。しかしトランプ大統領が言葉通りロシアと「世界中の課題について協力して働く」とすれば、その前に経済制裁の解除があると想定するのが普通だろう。

個人的にもロシア経済には注目している。産油国であるロシアは原油安に長らく苦しみ、通貨安によるインフレへの対処から高金利を余儀なくされていたが、原油価格が反発した今、経済を刺激するために金利を下げてゆける状況にある。当初は高金利に苦しんでいたものの、金利低下とともに未曾有の繁栄を享受した、レーガノミクス時のアメリカ経済のような状況である。ロシア経済についても時間があれば書きたいと思っている。

話が脱線するが、安倍首相が北方四島についてプーチン大統領と交渉した際、対ロシア経済制裁の解除というカードを切れなかった安倍首相には大いに失望したものである。トランプ大統領によっていずれ世界的に経済制裁は解除の方向に向かうと考えれば、このカードはほとんど何の外交的コストもなしにプーチン大統領から譲歩を引き出せる魔法のような手段だったのである。

逆にロシアに対する経済制裁を行いながらロシアとの平和条約を締結し北方四島を返してもらえると安倍首相が思っていたなら、彼の外交感覚はもうどうしようもない。それをロシア国民がどう政治的に受け入れるというのか? 政府が「ロシアとの経済協力は経済制裁に抵触しないように進めてゆく」と発表した時、安倍首相の交渉は何の成果も産まないと確信した。そして事実そうなった。何度も批判しているが、日本の外交は当たり前のように失敗を繰り返し続けている。

親ロシア、反中国のトランプ政権

トランプ政権はロシアに対しては有効的な戦略を取る一方で、中国に対しては厳しい見方を表明している。

トランプ大統領はホワイトハウスに新たに貿易担当部門を作り、そこのトップにピーター・ナヴァロ氏を据えた。ちなみに彼の主著は『中国による死(Death by China)』という名前であり、アメリカのありとあらゆる問題は中国のせいだと主張している本である。この人事は中国からすればたまったものではないだろう。ロジャーズ氏はナヴァロ氏についてこう述べている。

ナヴァロは中国を攻撃することでキャリアを築き上げてきたような人間だ。そしてトランプは、少なくとも外面的には彼の意見に耳を貸すだろう。そうなれば酷い対立が起きる。

ロジャーズ氏はトランプ政権のこうした政策を見て中国株への強気を撤回したのだろう。彼は以下のように当惑を表明している。

アメリカと中国は共に繁栄出来るはずだが、トランプは中国にお怒りのようだ。理由は分からない。彼も彼の家族も中国でいくつもの事業を抱えているのに。

正直な所、トランプ氏がこれほどまでに反中である理由はわたしにも良く分からない。彼が大統領選に出馬する前の彼の発言に目を通せば何か分かるかもしれない。その時はここで報告したい。

トランプ政権の保護貿易

ただ、いずれにせよトランプ氏が反中国的な政策を取ろうとしていることは事実である。裏にあるものは保護貿易の話だけではないような気もするが、投資家が当面気にするべきはそこだろう。ロジャーズ氏は原則としてトランプ政権の経済政策を評価しているものの、保護貿易が現実のものとなればアメリカもその他の国も大いに沈むと主張する。

トランプが本当にそうするつもりならば、投資家は持っているものをすべて売るべきだ。非常に、非常に深刻な問題が生じるからだ。

トランプが言葉通りに行動すれば、中国株は上昇することはない。そうなればどの国の株も上昇することはない。だから彼の言動を注視している。

一方で、ロジャーズ氏は中国株の一部のセクターにはそれでも強気である。

中国は環境問題に対処するために莫大な資金を注ぎ込んでいる。ヘルスケア事業も悲惨な状況だ。だから状況改善のために資金を注ぎ込んでいる。

中国経済の一部のセクターは、国際社会がどうなろうとも非常に好調となるだろう。

最後に、ロジャーズ氏はアメリカの政治家は世界を知らないとして皮肉を口にしている。わたしも日本の政治家は海外や外交を何も知らないといつも批判しているが、ロジャーズ氏から見たアメリカの政治家も同じようである。

ワシントンなどの人々のほとんどは、アジアで何が起こっているのかを理解していない。彼らは日本が落ち目だということを理解していない。北朝鮮と韓国が近いうちに統一されるということを理解していない。中国の台頭を理解していない。

世界の債権国を数えてみれば、それらはすべてアジアの国々だ。香港、台湾、韓国、日本、シンガポール、そしてロシアもだ。それが資産の在り処であり、人口動態が前向きな場所であり、エネルギーが存在するところなのだ。