トランプ氏、製薬会社は「人殺し」であるとして批判、製薬株急落

1月11日にはオバマ大統領とトランプ次期大統領の会見が行われた。オバマ氏の方は勿論、トランプ氏からも大局的に重要な発言はなかったが、米国株の投資家にとって重要な発言が一つ出た。製薬会社批判である。

トランプ相場における製薬株

トランプ相場では様々な銘柄が買われたが、その一つが製薬株であった。理由は二つあり、一つは海外企業がタックスヘイブンに溜め込んだ資金を米国に還流させる場合に課される税金を減税するトランプ氏の政策が、多くの場合アイルランドなど税率の低い国に本社を置いている製薬株にとって追い風になること、もう一つは、AIDSなど命に関わる病の患者が必要とする薬品の価格を釣り上げるなどしてアメリカ社会で批判を浴びていた製薬会社に対して、対立候補だったヒラリー・クリントン氏は薬価の引き下げなどを選挙中から訴えていた一方で、トランプ氏は製薬会社に対する姿勢を明確にして来なかった点にある。

恐らくはこの二点と、そして製薬会社の株価がかなり安い水準まで落ちてきているという点から、投資家らは大統領選挙後製薬株を買ってきた。その中にはトランプ氏の経済顧問チームに名を連ね、2008年の金融危機ではサブプライムローンを空売りして話題になったジョン・ポールソン氏も含まれていた。

トランプ氏に近しいポールソン氏が製薬株に強気だったことで、一部の投資家の間ではトランプ氏は製薬株に友好的な姿勢を示すのではないかとの噂があったのだが、今回の会見でトランプ氏は真逆の姿勢を示し、製薬株は急落することになった。

トランプ氏の製薬会社批判

会見を生で聞けば分かるのだが、トランプ氏の製薬会社批判はかなり熱のこもったものだった。先ずは製薬会社がアイルランドなど税率の低い国に拠点を移していることを批判している。

多くの産業がアメリカに拠点を戻そうとしていると思う。製薬会社にも同じことをさせなければならない。製薬業界は酷いもので、多くの企業がアメリカを離れている。彼らはアメリカに薬を供給しているが、アメリカでそれを作ることをしない。

そしてそれに続き、トランプ氏は命に関わる薬品の価格を釣り上げた一部の製薬会社をかなり痛烈に批判した。

また、製薬業界の入札についても新たなルールを作る必要がある。彼らは人殺しだが、何も罰を受けずにのさばっている。彼らは多大なロビー活動をして強大な力を得た。だから製薬会社ではまともな入札がほとんど行われていない。

アメリカは世界最大の薬の買い手だ。しかし入札がきちんと行われていない。だから正しい入札を開始する。そうすればアメリカは何十億ドルものお金を節約することが出来る。

つまりは製薬会社の利権による利益をアメリカ国民に還元すると言っているのである。製薬株が急落するのも当然だろう。ポールソン氏も保有しているAllergan (NYSE:AGN; Google Finance)の株価は11日に2.26%下落した。

2017-1-12-allergan-nyse-agn-chart

Allerganはもともとアメリカの企業だったが、2015年にアイルランドのダブリンに拠点を置くActavisと合併する形でダブリンに拠点を移した。トランプ氏の批判する典型的な製薬株ということになる。

結論

トランプ氏は本当に利権に対して容赦をするつもりがないらしい。そのためならば理に適わない保護貿易で国民を味方に付けることも厭わないということなのかもしれない。政治で何かを成すためには、何らかの政治的犠牲が必要となってくるからである。トランプ大統領は確実にその辺りをしっかりと計算している。今回のニュースは表面的には製薬株だけに関することだが、しかしこの一件でトランプ氏の本質が見えてきたような気がする。

そしてこの見方が正しければ、アメリカにおける構造改革の犠牲になるのは、謂れのない保護貿易で叩かれている中国経済ということになる。ジム・ロジャーズ氏が長年強気としていた中国株に弱気転換したことも正しいのだろう。

イギリスのEU離脱には不必要なコストは存在しなかった。イギリス人は単に必要なことだけを選んだ。イギリスはEU単一市場へのアクセスを失うかもしれないが、それはEUの独裁から逃れるためにはどう考えても避けられない、不可避のコストである。それはEUに関することであって、イギリス人自身がどうこう出来る問題ではない。

しかしトランプ政権で中国経済が犠牲になるとすれば、それは本来必要ではなかったが政治的に必要とされたコストということになる。ここにアメリカ人とイギリス人の差があるのである。

社会に巣食った偽善が大きければ大きいほど、それを取り払うコストは大きなものになってしまう。日本も豊洲市場などでそうした利権が明らかになりつつあるが、日本人はイギリスの成功に続けるだろうか?