2015年、米国利上げまでの投資戦略

Fed(連邦準備制度)による 量的緩和が2014年に終了し、2015年の中旬には利上げを控えているにもかかわらず、米国の株式市場は連日史上最高値付近で推移している。サウジアラビアが最近の原油価格の小反発を歓迎する意向を表明したことから、60ドル前後の原油価格が受け入れられたと考え、米国の個人消費の回復はますます揺るがないものになりつつある。

しかし、それでも利上げは歴史上何度も金融市場の暴落を引き起こしてきたイベントであり、米国株を保有する投資家は心の何処かで自分の買い持ちを心配している。

株式市場はこのまま利上げまで問題なく上昇するのだろうか? これは買い方も売り方もどちらも抱えている疑問であり、それぞれの答えがあるだろうが、先ずはおよそ考えられるシナリオを列挙してみたい。以下の3つである。

  1. Fedが利上げを急がないと宣言したこともあり、米国株は当初上昇基調を維持するが、利上げが実際に近づくにつれて相場は流動性縮小の重大さを思い出して急落、最終的には米国株強気派も弱気筋に転向し、利上げの前後に20%程度の下落を迎える。
  2. 利上げが近づくにつれ相場は一旦下落するが、ここ数年そうであったように、10%程度の下落を迎えたところで押し目買いが入り、相場は利上げを乗り越えたと考えて、本格的な上昇相場に移行する。
  3. 利上げはかなり以前から噂されていたことから、利上げに対する弱気派は既に逃げ出しており、強気派のみが市場に残ったことで、押し目らしい押し目も作らず上昇基調を維持し、利上げが実際に行われると、悪材料出尽くしで米国株は本格上昇を開始する。

実際に可能性の高いと思われるシナリオは2番目であるが、他の2つの可能性も排除しない。そして、投資家にとってはどのシナリオになるかは問題ではなく、それぞれのシナリオの意味するものこそが重要なのである。本当の暴落は利上げの前後には来ないからである。

ポートフォリオ・リバランスの逆流

問題は、上記の記事で述べたポートフォリオ・リバランスの逆流である。量的緩和によって国債の利回りが低下したことにより、米国の家計などは国債を売却してよりリスクの高い社債を買った。すると今度は社債の利回りが低下し、社債を買っていた投資家は不動産や株式を保有するようになった。これがポートフォリオ・リバランスと呼ばれる量的緩和の効果の1つである。

量的緩和が終了した今問題となるのは、株式市場に大量に流入したこれらの資金がいつ債券市場に引き揚げられてゆくのかということである。市場参加者やFedは気付いていないが、家計や年金など、これらの非投機的な資金が動くのは、利上げという短期的なイベントに際してではなく、実際に社債や国債の利回りが上がるときである。

沈黙する非投機的投資家

Fedは議事録の文言にばかり気を遣って市場の様子を見、短期的な市場の反応だけを気にしているが、本当に気にしなければならない家計や年金などの資金は、Fedの発言に右往左往することはなく、彼らはいまだ沈黙したままである。これは夏の利上げまで変わらないだろう。しかし一番の問題は、相場が利上げの局面を乗り超えることで、量的緩和の終了と利上げは既に織り込まれたと市場自身が勘違いをすることである。そうすれば米国株は本当のバブルの領域に突入してゆくことになる。

利上げまでの荒れ相場は本当の暴落ではない

逆に言えば、Fedが利上げに動いたとしても、国債や社債の利回りが比較的低位で抑えられている限り、急落のなかで株を売るのは投機筋のみであり、懸念される家計や年金の売りはこの時点では起こらないということである。

上記の記事で説明した通り、わたしが欧州株の買い持ちをヘッジせずにそのまま持っていられるのは、利上げ前後での急落は本当の暴落ではないと踏んでいるからである。米国株の売り持ちも、買い持ちに比べればやや少ない。しかし、それでも米国株が利上げまでにこれ以上上がるようであれば、ロングポジションをS&P先物の売りで完全にヘッジしてしまう必要が出てくるだろう。

ひとり踊る投機筋

いずれにせよ、本番は利上げを乗り越えた後である。仮に、株式市場が利上げまでに押し目らしい押し目も作らない場合は、量的緩和で作り上げられたバブルは長続きせず崩壊する可能性が高くなる。しかし、利上げ前後における株式市場の急落が大きければ、金融引き締めを織り込んだとする市場の自信は強くなり、利上げ後のバブル相場は大きく長いものになるだろう。

しかし忘れてはならないのは、どれほど急落が大きくなろうとも、これから利上げまでに市場で踊っているのは投機筋のみであり、本当に重要な家計や年金などの資金は素知らぬふりで、国債や社債の利回りが上がるのを待っているということである。彼らの売りは、利上げを乗り越えたと慢心し切っている株式市場に降り注ぎ、本当の暴落を引き起こすことになる。それはまだ先の話である。しかし、投資家はそれまでのシナリオをしっかり見据え、取ることのできるリスクのみを取っていかなければならないだろう。