引き続き、Rosenberg Researchのデイヴィッド・ローゼンバーグ氏の、デイヴィッド・リン氏によるインタビューである。
今回はアメリカ経済の見通しについて議論している部分を紹介したい。
トランプ関税の延期
トランプ政権の関税が延期されて株式市場は大喜びだが、前回の記事でローゼンバーグ氏は、関税は十分な規模でまだ存在していると指摘していた。
更にローゼンバーグ氏は、トランプ政権の関税があったことによる別の弊害も指摘している。ローゼンバーグ氏は半年近く停止しているFed(連邦準備制度)の利下げについて次のように述べている。
トランプ氏の関税戦争がなければ、Fedは利下げを再開していただろう。
だがFedは関税政策による不確実性から、利下げを停止したままである。
元々割高だった米国株
前回の記事で述べたように、筆者の考えでは4月の株安の本質的な原因は関税ではない。
ローゼンバーグ氏が去年から言っていたように、そもそも米国株のバリュエーションは元々極めて高かったのである。
それはバイデン政権の過剰な現金給付を含め、コロナ後も大規模な財政赤字が維持されていたことに起因する。
ローゼンバーグ氏は次のように述べている。
ジョー・バイデン氏の2兆ドルの現金給付が消費を刺激した。2兆ドルものお金が実際に使われるとはほとんどの人は思わなかった。だが2兆ドルはすべて支出に回された。
それこそがアメリカ経済を動かし続けたものだ。それが動力源だった。この時に与えられた貯蓄はもう残っていない。
現金給付は2022年で終わったが、その後もアメリカの財政赤字は高止まりしている。バイデン政権は現金給付の後もばら撒き政策の法案を連発した。
ローゼンバーグ氏は次のように続ける。
だが財政刺激は他にも行われた。バイデン氏のCHIPS法やインフレ抑制法だ。後者は言葉が矛盾しているが。だがもうそれはない。
是正される財政赤字
「インフレ抑制法」の名前で財政支出を行なったバイデン政権はもはや意味不明なのだが、ともかくコロナ後も財政赤字が続けられ、その規模は今やGDPの7%に達している。
トランプ政権はこの財政赤字を3%まで下げるという目標を立てている。
最近発表された予算案では、支出削減は期待されたほどではないものの支出は減っており、少なくともトランプ政権がばら撒きを行うつもりがないことをはっきりさせている。
株式市場にとっての問題は関税よりも、これまで株価を支えていたばら撒きが取り下げられることである。ローゼンバーグ氏は次のように言う。
財政刺激は来ない。そしてFedは政策金利をインフレ率よりも2%高い位置で維持している。
株式市場にとって重要なのは財政政策と金融政策である。
そして少なくとも財政政策の方は株価に味方してくれそうにない。債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏が指摘するように、財政赤字を7%から3%に4%下げるということは、GDPを4%下げるということなのである。
2025年の金融政策
では金融政策はどうなるのか。ローゼンバーグ氏が指摘しているのは、政策金利がインフレ率よりもかなり高いことである。
現在アメリカのインフレ率は2.3%であり、政策金利は4.25%である。
政策金利はインフレ率よりも2%も高い。これはインフレ打倒のための2022年の金融引き締めサイクルでも起きなかったことである。ローゼンバーグ氏は次のように言う。
2022年から2023年のFedの引き締めサイクルでは、そのほとんどの期間で政策金利はインフレ率より低かった。
インフレ率は9%まで行った一方で、政策金利は精々5%だった。金利が5%も上がったにもかかわらず、景気後退が起きなかったことについて、ローゼンバーグ氏は次のようにコメントしている。
当時の政策金利は恐らく十分に高くなかったのだろう。
だが今や、政策金利はインフレ率を2%上回っており、パウエル議長は利下げに慎重な立場を示している。
ローゼンバーグ氏はアメリカ経済の現状を次のように纏めている。
Fedはインフレ率が下がる中で政策金利を維持し、秘密裏の引き締めを続けている。そして財政刺激は来ない。
そして実質経済成長率はもはや3%や4%ではなく、2%だ。
アメリカ経済の見通しは今年から2026年にかけてかなり厳しい。
結論
ローゼンバーグ氏の述べていることはすべて事実である。関税は今でも存在し、財政政策はGDPを4%引き下げる方針で、金融政策はこれまでにないほどに引き締め的である。
実際、株価が短期的にもう一度下落すると予想しているヘッジファンドマネージャーも少なくない。
株式市場が好調である時こそ株価を取り巻く現状を冷静に見るべきだろう。
一方で、金融政策については現状だけではなく、来年にかけてのことも考慮に入れるべきである。
パウエル議長の来年5月の任期終了に伴い、トランプ政権は新たな議長候補を選んでいる。筆者の予想では金融緩和に積極的な人物が選ばれ、景気刺激と債務負担の軽減のためにドルが犠牲となるだろう。
市場はそれを今年の後半から織り込み始めることになる。
株式市場は財政赤字の縮小というマイナスと金融緩和というプラスの板挟みになる。株式市場については以下の記事で意見を纏めている。
しかし現状ではドル相場を読むことが投資家にとっては一番簡単なのではないか。トレードする方法は、ドル円やユーロドルもあるが貴金属が一番分かりやすいだろう。
恐らくトランプ政権はドルを犠牲にするほかない。レイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想している基軸通貨ドルの衰退はこのようにして起きるのである。われわれは今歴史の転換点にいる。

世界秩序の変化に対処するための原則