Rosenberg Researchのデイヴィッド・ローゼンバーグ氏が、デイヴィッド・リン氏のインタビューで、トランプ政権の関税政策について語っている。
関税の延期と株価の反発
今年は春からトランプ政権の関税政策で大騒ぎだったが、関税は結局大きく引き下げられ、株式市場は大喜びである。
米国の株価指数であるS&Pは下落前の水準まで戻ってきている。

株価はこのまま回復してゆくのか? だがこういう楽観の時こそ市場とは逆の悲観的な意見を聞いておくことは有益だろう。
関税延期は良いニュースか?
ローゼンバーグ氏は市場の楽観ムードに懐疑的であり、関税の引き下げに対して次のように言っている。
中国がアメリカに125%の関税をかけ、アメリカが中国に145%の関税を掛けていたのは、1ヶ月だけだ。
もし145%の関税を10年かけていて、それが30%になったのであれば祝福したい。貿易がゼロからたくさんになるだろうからだ。
だが今回の関税の引き下げが経済の見通しをそれほど明るくするだろうか? それほど長い間関税がかかっていたわけでもないのに。
ここでも何度も書いているが、関税はまだ存在する。中国については30%であり、その他の国も10%以上の関税が掛けられている。
だが、株価が元に戻っているように、市場は関税などなかったかのような喜びようである。
しかしローゼンバーグ氏は次のように言っている。
アメリカは最低10%のベース関税を他の国との間に設けている。
人々は「良かった、関税は24%じゃないんだ」と言うが、実効関税率は13%だ。そしてトランプ氏の貿易戦争の前は関税は何年もの間いくらだった? 2.5%だ。
関税はしっかりかかっている。ニュースに出ていたような145%ではなくなっただけだ。だが人々も金融市場もそれを忘れてしまったかのようだ。
危機は去ったと言うかのような投資家の反応に、ローゼンバーグ氏は次のように言っている。
人々は銃弾を避けたと思っているが、避けたのは大砲だ。そして銃弾は残っている。
結論
言いたいことは2つある。関税でトランプ大統領を批判していた人ほど、トランプ大統領に騙されている。
最初から中国に30%の関税を掛けていたとしたら、メディアは145%の関税が掛かった時と同じようにトランプ氏を批判していただろう。
だが関税を一度145%にしてから30%に下げれば、人々はあたかも関税がなくなったかのように扱ってくれる。しかも4月に関税に大騒ぎしていた人々の方がやすやすと騙されているように見える。
こんなことに騙される方の知的レベルが問題なのだが、実際に多くの人がトランプ氏の術中に嵌っている以上、ディールの芸術と言うほかない。
そしてもう1つは、米国株下落の本質的原因がそもそも関税ではないことである。米国株は去年の段階で既に極めて割高の水準に達していた。これもローゼンバーグ氏の指摘である。
だが普通、株式の上昇相場は次々に燃料が投げ込まれる限り継続する。4月に株価が下落したのは、関税があったからではなく、トランプ政権が財政刺激も金融緩和も提供しなかったからである。
つまり、株安の根本的原因は関税というマイナスがあったことではなく、景気刺激というプラスがなかったことであり、少なくとも予算案を見る限りトランプ政権は支出を増やす方向では動いていない。
株価の行方は財政刺激と金融緩和がどうなるのかにかかっている。それについては次の記事で書くことにしたい。