レイ・ダリオ氏: 国債暴落で先進国でも中央銀行は破綻する

世界最大のヘッジファンドBridgewaterのレイ・ダリオ氏が、最近発売された新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)で、中央銀行の破綻の可能性について語っている。

中央銀行は破綻しないのか

先進国の政府や中央銀行は破綻することはない、何故ならば自国通貨で借金をしている政府は、いざとなれば中央銀行に紙幣を印刷させて借金を返せば良いからだ、ということがまことしやかに語られていたのはコロナ前の話である。

だがそう主張する人々は、例えばこれまで破綻してきた歴史上の大国が実際にそうだったのかを少しでも調べたことがあるだろうか。

世界最高峰のヘッジファンドマネージャーであるダリオ氏は、金融史の研究で有名である。そして、ダリオ氏が研究したアメリカ以前に覇権国家だった大英帝国やオランダ海上帝国を含む、歴史上の様々な先進国の例を見れば、上記の主張がまったく正しくないということが分かる。

歴史上の事例については、ダリオ氏の前著『世界秩序の変化に対処するための原則』で説明されているから、そちらに委ねたい。

だが国家の破綻をテーマとした新著において、ダリオ氏は実際にどのように先進国の中央銀行が破綻に陥るのかを詳しく説明している。

先進国が破綻するまで

ダリオ氏は、段階を追って国家が破綻まで行く道のりを説明している。

まずは経済全体に債務が増えてくるところからである。ダリオ氏は次のように述べている。

民間企業と政府が債務を積み重ねる。

これは2008年のリーマンショック前の段階である。この段階では、まだほとんどの人は債務が何ら問題だとは思っていないだろう。

だがダリオ氏によれば、まず民間企業の方で債務問題が立ち行かなくなる。ダリオ氏は次のように続けている。

民間企業が債務危機に陥り、それを救済するために政府の債務が更に重くなる。

これはアメリカにおいてはリーマンショック時に起こったことである。リーマンショックでは破綻した銀行や保険会社が政府によって救済された。

米国政府はもちろん財政赤字を出して銀行や保険会社の損失を補填したので、実際には民間企業の負債が政府の負債に移されたのである。

国債の下落が始まる

実際、アメリカではリーマンショック後に民間の負債は大きく減った。そしてその分政府の負債が増えた。

「先進国の政府は破綻しない」という人々の幻想が始まるのはここからである。大企業は倒産したが、先進国政府は倒産しないだろう。実際には歴史上いくらでも倒産しているのだが、歴史を知らない人々はそれを信じられる。

さて、民間の借金を肩代わりすることで、政府の借金はどんどん増えてゆく。その次には何が起こるか。ダリオ氏は次のように述べている。

国債の供給量に対して需要が不足し、自由市場における引き締めが政府を襲う。

先進国政府にとって特にターニングポイントとなるのは、緩和政策によって実際にインフレが発生してしまった瞬間である。インフレ抑制のために金利が上げられ、これまでゼロ金利だった大量の国債に利払いが発生し始める。

政府は借金の利払いを新たな借金で返すので、ここから国債はねずみ算式に増えてゆくことになる。

大量の国債が暴落する

国債の発行がねずみ算式に増えてゆくと、国債の買い手の方はねずみ算式には増えていかないという現実に直面する。

だから金利が上がった時点で、国債の需要と供給は何処かの時点で破綻する運命にある。

今のアメリカで言えばどうか? それこそが4月の株安時に起こった米国債の急落である。

株価下落時には普通買われるはずの国債が下落した。それは米国債が安全資産ではなくなったことを意味する。機関投資家たちにとっては株安など日常茶飯事だが、株安時に国債が下落することは日常茶飯事ではなかった。

ダリオ氏は以下の記事で、過去にそれが起こった時に金融市場がどうなったかを語っている。

4月の米国債急落は、それに気づいたスコット・ベッセント財務長官が関税延期を提言したことで止まった。

だが米国債をめぐる状況は何も変わっていない。だから問題はぶり返されるだろう。そして、上にも述べたが、金利が上昇している限り、米国債の需要と供給がどこかの時点で破綻することは時間の問題なのである。

中央銀行は国債を救えるか

4月の米国債急落はいずれ更に大きな問題となって帰ってくる。

本格的な米国債が始まったとき、政府はどうするか。先進国が破綻しないと信じている人々は、中央銀行が国債を買うのだと言うだろう。

その通りである。ダリオ氏は次のように続けている。

債務危機が起こり、政策金利がそれ以上下げられないとき、中央銀行は紙幣印刷して国債を買い入れ、長期国債の金利を下げ、政府が借金を返しやすいようにする。

だが致命的な問題がある。金利の上昇により国債が暴落するこの時点で、既にインフレが起こっているということである。

中央銀行の紙幣印刷はそのインフレに制約される。あるいはインフレを無視して紙幣印刷しても良いのだが、それはインフレと通貨安を悪化させ、国民の怒りを買うだろう。

中央銀行の破綻

だから中央銀行はインフレが激化しない範囲でしか紙幣印刷ができない。あるいはインフレが激化する範囲で紙幣印刷をすれば、政府の借金は印刷された紙幣で返せるが、国民の生活は無茶苦茶になっているだろう。

また、もう1つの問題は、国債の保有者は新たに印刷された紙幣で借金を返してもらっても嬉しくないということである。

紙幣印刷で国債の実質的価値は下がる。国内の投資家はインフレでそれを感じ、国外の投資家はその国の通貨が暴落することによってそれを感じるだろう。

どちらにしても国債保有者は損をしてしまう。ダリオ氏は次のように述べている。

金利上昇で問題が生じているのを国債の保有者が見て、彼らはますます国債を持たないでおこうと思う。それが更なる金利上昇に繋がり、更に紙幣印刷を行わなければならなくなる。それが国債と紙幣からの更なる資金逃避に繋がってゆく。

だからいずれにしても国債は売られ続けることになる。

そして先進国の中央銀行がついに破綻に向かうのは、このタイミングである。ダリオ氏は次のように続けている。

国債の売りが止まらず、金利が上がり続けた場合、中央銀行は損失を計上する。中央銀行が支払わなければならない金利が、買い入れた国債から得る金利よりも高くなるからだ。

中央銀行は銀行の銀行であるので、銀行の預金に対して金利を支払っている。

一方で中央銀行は保有する国債から利払いを受けるわけだが、このタイミングにおいて、金利はインフレで上がっているだろう(今金利が上がっているように)一方で、中央銀行が持っている国債の大半はもっと金利が低かった時に買い入れたものである。

だからインフレと国債下落が止まらない状況下においては、中央銀行が銀行に支払わなければならない利払いが国債から受け取る利払いを上回り、中央銀行は急速に資金を失ってゆく。

そして中央銀行は最終的には、自分自身を紙幣印刷で救済しなければならなくなる。だがそれをやれば、インフレと通貨安が更に悪化するだろう。

結論

「先進国の中央銀行が破綻することはない」と主張する人々に対し、ダリオ氏は次のように纏めている。

中央銀行が破綻すると言うとき、わたしが言っているのはこういうことだ。

国債がデフォルトするかどうかは重要な問題ではないのである。

これからどうなるか。アメリカでは上記のシナリオのうち、米国債が下落しかかっている段階までシナリオが進んでいる。恐らくは今年か来年の内に、アメリカは紙幣印刷に頼らなければならない状況に陥るだろう。

ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)は、恐ろしいほど具体的にこれから起こることを予言している。英語版しか出ていないが、英語が読める人は原著で読むことをお勧めしたい。


How Countries Go Broke