銀価格が金価格の急騰に追いついてゆくかどうかは、普通の人々がインフレを懸念し始めるかどうかにかかっている

周知の通り、金相場の急上昇はもう2年ほど続いているが、それまであまり上がっていなかった銀相場も今年の夏頃から急激に上がり始めてきた。

上がっているゴールドと出遅れのシルバーはこれからどうなるのか。この記事ではこれら貴金属の相場見通しについて書いてみたい。

金相場と銀相場

ここの記事では、去年からずっとゴールドとシルバーを推す記事を書き続けている。

そして予想は的中し、ゴールドはずっと上がってきたが、一方でシルバーは長らく沈黙したままだった。

だが、ここではシルバーはいずれゴールドの急上昇に追いついてゆくと書き続けてきた。

そしてまさにその通りになった。以下は銀価格のチャートである。

だが、それでも銀価格は去年から2倍になっている金価格の上昇にはまだまだ追いついていない。

何故、ゴールドだけ上がっていたのか? そしてシルバーは、永遠にゴールドよりは上がらない状態を続けるのだろうか。

ゴールドとシルバーの買い手

それを考えるにはまず、そもそもゴールドが何故ここ2年間上がり続けているのかを考えなければならない。

ここの読者にはお馴染みの話だが、金価格上昇の理由は、中央銀行が買っているからである。

厳密に言えば、アメリカと距離を置きたい国の中央銀行、例えばBRICS諸国や中東諸国などの中央銀行が、外貨準備のドルを捨ててゴールドに持ち替えているということである。

理由は2つある。まず、ウクライナ戦争以降、アメリカが対露制裁に同調しない国を制裁で脅して回っている(最近もインドに対してやっていた)ことから、ドル資産を持っていればアメリカの都合で資産を凍結されかねないと懸念した国々が、ドルを売り払ってゴールドを買っている。

もう1つは、コロナ後の金利上昇で米国債の利払いが急増し、アメリカは借金の利払いを新たな借金で返さなければならない状態に陥っていることから、国債の発行量の上昇から米国債が買い手不足で下落しないか懸念されているということである。

これらの要因で各国の中央銀行がドルを売ってゴールドを買っており、それが金価格上昇の理由となっている。

そして、シルバーは中央銀行の外貨準備に含まれていない。

この状況を考えれば、シルバーが中央銀行の外貨準備に含まれない限り、シルバーはゴールドに追いつけないように見える。

そしてその状況は少なくとも短期的には起こりそうにない。

だが、まだ考察していないことがある。シルバーの買い手である。

シルバーの買い手

ゴールドの主な買い手については考察した。中央銀行である。

だが、それには歴史的な経緯がある。そして、シルバーにも歴史的な買い手がいる。

前回のラッセル・ネイピア氏の記事を思い出してもらいたい。ここでネイピア氏が言っていたのは、歴史的には人々は金貨ではなく銀貨を使っていたということである。

現在の価値で言えば、1オンスの銀貨の価値は50ドル、同じ重さの金貨の価値は4,000ドルである。

つまり、まだ金貨と銀貨が使われていた時代、銀貨の方は日常生活で使えても、金貨の方はまったく使えないのである。

だから普通の人々が日常の生活で使うものは銀貨だった一方で、逆に中央銀行が銀貨で外貨準備を蓄えれば途方もない重さになるから、中央銀行にとっては少量でも価値の高いゴールドを蓄えた方が都合が良かったのである。

買い手の違うゴールドとシルバー

ここの記事で言いたいのは、ゴールドとシルバーの価値の大きさの違いによる買い手の棲み分けは、今の相場でも有効ではないかということである。

インフレになる前の相場では、ゴールドもシルバーも金融業界のコモディティトレーダーたちが金利や需給などを考えて理性的に価格を決めていた。

だがインフレになって、金利上昇が問題になり、まず中央銀行がドル紙幣からの離脱を考え始め、ゴールドを買い始めた。

それは、中央銀行にとってはゴールドの方が蓄えるのに都合が良かったからだ。

だが、もしインフレがこのまま収まらないのであれば、少しずつ普通の人々も紙幣の価値が下がっていることに気づき始める。

中央銀行がシルバーを買っていないのであれば、最近の銀価格の上昇はそれが理由ではないのか。

普通の人々がインフレから逃れようとしたとき、ゴールドは価値が高すぎるのである。一方で、銀貨や銀食器を買うことくらいであれば、1万円ほどあれば普通の人々でもできる。

そういう瞬間が来たとき、上がるのはゴールドではなくてシルバーなのである。

結論

だから、ゴールドとシルバーの値動きの違いは、買い手の違いを意識しながら追いかけるべきだろう。そして、中央銀行が紙幣を捨ててゴールドに逃避するタイミングはもう始まっているが、普通の人々がインフレを避けるためにシルバーを買うタイミングは、まだ始まっていない。

筆者の今のところの予想では、コロナ以後のインフレの問題は、最終的にはそこまで行くような気がしている。少なくともトランプ政権の動きはそちらに向かっているように見える。

Bridgewaterのレイ・ダリオ氏は、アメリカが結局ドルからの逃避の問題をどう処理するのかについて、新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)で詳しく解説している。日本語版はないが、英語が読める人はそちらも参考にしてもらいたい。


How Countries Go Broke