麻生太郎氏、日銀による財政ファイナンスを肯定: 日本の財政破綻問題はどのように解決されるか

これはかなり古い情報なのだが、麻生財務相や財務省の考え方を端的に示しているので、一度取り上げておきたい。

この動画は2010年に麻生太郎氏が日本の債務問題について語ったときの様子であり、麻生氏は日本がギリシャのような財政破綻に陥る可能性を否定すると同時に、現在では驚くべきことだが、日銀による財政ファイナンスを明確に肯定している。

日本国債のデフォルトという神話

麻生氏の演説の内容を順に見てゆこう。演説は先ず、日本の財政破綻はありえないと主張することから始まる。

世の中で間違ってマスコミが流し、多くの人が信じている話が一つあると思います。それは日本という国が破産するという話。

GDP比で200%を超える日本の政府負債がどのように処理されるかという問題は、これまで長らく議論がされてきた。このような膨大な債務は戦時でもなければ先進国では例がない。世間では日本の財政破綻を懸念する向きもあるが、麻生氏はそれは有り得ないと一蹴する。それは何故か? 日本の政府債務の貸し手が日本国民だからだと麻生氏は言う。

今お金を借りているのは、皆さんじゃありませんからね。お金を借りているのは政府です。お金を100借りていれば、これは必ず100貸している人がいなきゃおかしい。帳簿ってのは左と右が必ず揃うことになってますから。100借りている政府が居るんであれば、100貸している誰かがいる。誰が貸してるんです? そうです、国民が貸してるんだね。

需要不足を埋め合わせるための政府債務

しかし、そもそも何故日本政府は借金をしなければならないのか? 麻生氏はそれは民間に資金需要がないからだと述べる。

誰もお金を借りようとしない。少なくとも預金する人は多いけれども借りる人がいなけりゃ銀行はみんな潰れちゃうんですよ。年間約30兆くらい借りてくれる人が足りない。約30兆。年によって違うけど。誰かがそれを借りてくれない限りは30兆分だけデフレになりますから。それを借りてくれてるのが政府。

麻生氏は要するに、日本政府が借金をして公共投資をしているのは、民間の弱い需要を補うためだと言う。これは実は、米国の元財務長官ラリー・サマーズ氏の長期停滞論に見事に合致した財政政策である。

先進国経済はみなデフレ化および低成長化が進んでいる。人口動態など様々理由が挙げられているが、サマーズ氏はこの長期停滞から脱出するためには、政府が財政政策で需要の不足分を補うべきだとする。麻生氏と同じ議論である。一方で債券投資家のビル・グロス氏のように、デフレを受け入れるべきだとする意見もあるが、話を麻生氏に戻そう。

自国通貨建て国債の意味

では、借り手が日本国民であれば何故財政破綻しないのか? 麻生氏は日本国債が円建てで発行されていることを指摘する。

みなさんが貸してるってことは円で貸してんだからね。円で貸してんのよ。日本の国債の94%は日本人が買ってます。残り6%は外国人が買ってるけれども、その人も円建てで買ってるから。だから、100%円で賄われると思って下さい。

日本政府の借金が円建てで発行されていれば、満期が来たときにはどうなるのか? 麻生氏はこう続ける。

円で当然賄われてるから、いざ満期になった時はどうすればいいか。そら日本政府がやってんだから、日本政府は印刷して返すだけですがな、あなた。だって日本円なんだから。簡単なことだろうが。外国に返すとなったらそらドルに替えないかんよ。ユーロに替えないかん。ギリシャなんかみなそうです。(日本は)全然違います。だから返さなくていい。

清々しいほどの財政ファイナンス宣言ではないか。この演説は自民党が野党であった時のものであり、自民党が与党に戻った今ではこのような発言は出来ないのだろうが、これが彼と、そして財務省が日本の政府債務に対して持っている共通認識である。

21世紀の財政ファイナンス

そして財政ファイナンスは既に行われている。日銀は量的緩和で国債を買い入れ、その国債に付いた利払いは、貸し手となった日銀から政府へと払い戻されている。これらは財務省が望んだことである。

日本は戦前、高橋是清財務相の時代に同じことを経験している。財務省も当然それを念頭に置いている。ではその時は日銀の国債引き受けだけで済んだのか? そうではない。日本の政府負債はその後も膨らんでゆき、戦後の預金封鎖、新円切替、そして財産税法によって国民の資産を大幅に接収することでようやく収拾を見たのである。

財産税など極端な話だと思う読者もいるかもしれないが、では財産税なしで戦後と同じ規模の負債をどうやって返すというのか? そしてそもそもマイナンバー制度や国外財産調書制度などは、財務省が財産税に備えて導入させたものである。

また、日銀のマイナス金利も額は少ないが本質的には財産税そのものであり、上記のビル・グロス氏も、マイナス金利は金融政策というよりはむしろ財政政策だとTwitterで発言している。政府側の、というよりは財務省の意図が透けて見えるというものだろう。

問題はこれだけではない。量的緩和は既に資産バブルを生んでしまった。2015年8月からの世界同時株安はバブル崩壊の予兆であり、これは今すぐに崩壊するものではないが、ただの予兆でどれだけ株価が下落するか、投資家は思い知ったことだろう。

日本経済はかなり深刻な問題を抱えている。日本国民は大いに心配したほうが良いだろう。投資家にとって金は逃げ場になるだろうか? 財産税まで行けば金でも宝石でも強制的に接収されるわけだが、少なくともそれまでは、市場の暴落から資産を守りたいものである。