ジョージ・ソロス氏の君子豹変、ハイテク株空売りから大幅買いに大転換

さて、毎四半期お馴染みの機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fの季節がやってきた。まずはジョージ・ソロス氏のSoros Fund Managementのポートフォリオから見てゆきたいが、非常に面白い内容となっている。

ハイテク株空売りから大幅買いへ

今回は6月末のポートフォリオが開示された。今年は株価が大幅に下落した年だが、ソロス氏は去年末から金利上昇で特に下落したNasdaqを狙い撃ちにして空売りしていた。

その後の3月末の開示では、既に暴落していたNasdaqの狙い撃ちから、空売り対象を米国株全般に広げたことを報じた。

そして今回の6月末の開示ではどうなったか? 何とソロス氏はハイテク株の空売りから大幅な買い持ちへと転換している。

そもそも米国株の買いポジションだけを開示するForm 13Fで空売りの情報を得られたのは、株価下落で価値が上昇するプットオプションの買いポジションがあったからである。ソロス氏は6月末の開示ではNasdaq ETFのプットオプションを3.6億ドル分買っていた。

だが今回それがどうなったかと言えば、株価上昇に賭けるコールオプションの買い1.1億ドル分に変わっている。空売りを手仕舞うだけでなく一気に買い持ちに転換したのである。

その後、Nasdaqの株価は次のように推移している。

まさに6月末から上がり始めている。

また、ソロス氏はそれだけではなく新たに2.1億ドル分のAmazon.comの買いポジションを作っている。その後Amazon.comの株価は次のように推移している。

こちらも明らかな成功である。

金利低下を予想か

この他には、今年に入ってからソロスファンドの巨大ポジションとなっている電気自動車メーカーのRivian Automotiveのポジションを31%手仕舞い、評価額は4.6億ドルとなっているが、これは元々未公開株の時点で大量保有していた株が上場による株価上昇で巨大ポジションとなっていたものであり、縮小したくなったのだと思われる。全体の相場観というよりは個別ポジションに関する判断と考えるべきだろう。

Rivianを除けばソロス氏の(あるいは現CEOであるドーン・フィッツパトリック氏の)ハイテク株への判断は明らかに変わっている。これは恐らく金利上昇がストップすることを予想したのではないか。アメリカの長期金利は次のように推移している。

これは筆者を含む市場参加者がインフレ鈍化について考え始めたからである。

そしてインフレ率は実際にその後減速している。

去年から高金利でハイテク株が急落することを予測していたソロス氏だから、金利が天井を打てばハイテク株も復活すると読んだのだろう。空売りから買いへと見事な君子豹変である。

結論

筆者を含め、ここ数ヶ月、単純なインフレ相場(株価下落とコモディティ上昇)からの転換について考えていた専門家は多い。債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏などは株価に対して強気転換していた。

ソロス氏もハイテク株に関してはガンドラック氏の側についたと言える。

しかしS&P 500のプットオプションは9%減っただけでまだ1.9億ドル分残っている。米国株全体についてはソロス氏はまだ空売りを継続している。

またForm 13Fに申告されたポートフォリオ全体の規模は56億ドルと前回の66億ドルから減っている(但しこの数字はプットオプションを含んでいる)ので、ハイテク株に強気になったとは言えるが、米国株全体に強気になったとは言えなさそうだ。

これからどうなるだろうか。ソロス氏の弟子であるスタンレー・ドラッケンミラー氏は、株価が上昇すれば空売りを再開するとしていた。

また、クレディ・スイスのゾルタン・ポジャール氏は弱気相場が継続すると見ている。

様々な専門家が様々なことを考えている。筆者はこれを非常に大きな下落相場における過渡期だと考えている。下落相場が大きければ大きいほど、その中に存在する反発相場も大きく長いのである。

他の著名投資家のポートフォリオも順番に報じてゆくので、楽しみにしてもらいたい。