ポジャール氏、人民元が基軸通貨になれるまでの道のりを説明する

クレディ・スイスを退社してリサーチ会社Ex Uno Pluresを創業したゾルタン・ポジャール氏が、Odd Lotsのインタビューで、人民元の国際化について語っている。

ポジャール氏は中国が中継銀行という概念を不要にすることで人民元は国際化すると語っており、金融業界の人間にはそれだけでなかなか面白い話だと分かるだろう。

世界的なドル離れ

ロシアのウクライナ侵攻後、アメリカがドルを中心とした銀行システムを経済制裁の手段として使い、自身の対ロシア経済制裁に参加しない無関係の国々を脅して回っていることが原因で、中国やインドなどの国々がドルから離れることを模索している。

これまで原油や天然ガスなどコモディティの取引は、アメリカ以外の国同士で行われる場合も慣習としてドル建てで行われてきたが、ブラジルなどの国々はドルではなく自国通貨で決済を行うように他国に呼びかけている。

日本人はウクライナ情勢へのアメリカの介入を正義だと思い込んでいるようだが、他の国はそう思っていないということである。

レイ・ダリオ氏など一部の専門家はドルに代わって人民元が基軸通貨になると考えている。だが娘に中国語を覚えさせるためにわざわざシンガポールに移住した投資家ジム・ロジャーズ氏は、閉鎖的な通貨である人民元は国際的な通貨にはなれないと主張するなど、何がドルの代わりになるのかについては意見が分かれている。

人民元は基軸通貨になれるか

ポジャール氏は、やはり人民元がドルに代わって基軸通貨になると考える1人である。だが国際的な決済や資金調達について金融業界で誰よりも詳しいポジャール氏は、人民元が基軸通貨になる上での障害についても理解している。

ポジャール氏は人民元の国際化の歩みについて次のように説明している。

中国は貿易の決済に使えるように人民元を国際化するようかなり努力してきた。それが始まったのは2015年頃だが、それは今では止まっている。

その理由は恐らく、ロンドンやニューヨークなどの西側の金融システムの中で、西側の銀行のバランスシートを通して人民元を国際化しても意味がないということに中国が気づいたからだ。それでは自分の通貨が流通しているシステムをコントロールできない。

「西側の銀行のバランスシートを通して」という部分に少し説明が必要だろう。多くの銀行は自行において国際的な送金ができない。そうした銀行が海外送金を請け負う場合、中継銀行と呼ばれる国際的な業務を行う銀行が送金を中継することになるが、中継銀行になれる国際的な銀行は、その多くが西側の銀行である。

ロシアが西側の経済制裁で国際的な決済網(SWIFT)から排除され、ロシアが逆にアメリカに対して同じことが出来ないのは、そこに理由がある。

人民元が基軸通貨になるために

ポジャール氏は次のように付け足す。

これはロシアがウクライナを併合し、金融業界で経済制裁が話題になっている中で起こっている。

中国がアメリカに脅されないようにするためには、中国は単にこのまま人民元を国際的な決済で使えるようにしても意味がない。

そこで出てくるのが、中央銀行の管理するデジタル通貨である。ポジャール氏は次のように続ける。

中国が人民元を本当の意味で国際化したいなら、一番最初から始め、自分でコントロールできる金融ネットワークを新たに構築する必要がある。

それと同時に中央銀行のデジタル通貨が話題に上がってきた。

デジタル通貨は、ビットコインのように銀行がなくとも決済が完了できるシステムである。金融業界では同じ仕組みを中央銀行が実装し、より利便性の高い決済システムに活かすという話が出ている。

ポジャール氏によれば、中国はそれを狙っている。西側の中継銀行ではなく、デジタル通貨の決済網を用いて決済できるようになれば、中国やインドやブラジルなどの国々は西側の決済システムから自由になる。

ポジャール氏は次のように主張している。

今から5年から10年先には、人民元は今よりも大幅に国際化されるが、人民元による国際的な決済は、中継銀行のネットワーク内ではなく、中央銀行のバランスシート内で起きることになる。

中継中央銀行のネットワークというものを想像すべきだ。今後の世界では、各国が独自の通貨を使った銀行システムを持っているが、2国間、例えばタイと中国が貿易をするとき、2つの中央銀行の取引によって為替が完了することになる。

このようなシステムを想像してみれば、国家間、中央銀行間のネットワークであって、西側の金融センターやドルとは完全に無関係になる。

結論

これまでは、アジアやアフリカや中東の地域間で貿易が行われるときも、ドルによる決済が行われてきた。それはドルの需要を爆発的に増加させ、アメリカが無尽蔵にドル紙幣を刷ってもドルが暴落しない状況を作り出した。

今もまだ居るのかは分からないが、少し前までは米国株のここ40年間の上げ相場に夢中になって、米国株は今後も永遠に同じ上げ相場を続けるのだと妄想している人が大量にいた。

筆者は直近40年の米国株の上げ相場について、1980年以来ずっと続いてきた金利低下トレンドが原因であり、コロナ後のインフレによってその長期トレンドはもはや完全に失われていることを指摘した。

だがこれも基軸通貨ドルと関係している。アメリカが金融緩和を続けられたのは、ドルが基軸通貨であったために緩和をしてもドルが下がらなかったからである。

しかしポジャール氏によれば、ドルが基軸通貨から緩やかに退場してゆく土壌は整ったようだ。

それは大英帝国の通貨ポンドが基軸通貨ではなくなったのと同じ長期のプロセスになる。

だが今がそのプロセスの始まりだという見解は、恐らく正しいのかもしれない。ポジャール氏の新会社は、まさにそのために設立されている。