サマーズ氏、何故まだアメリカに景気後退が来ていないのかを語る

引き続き、Bloombergによるアメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏のインタビューである。今回は、アメリカが長らく金融引き締めを行ないながら、予想され続けている景気後退がまだ来ていない理由について語っている部分を取り上げたい。

コロナ後のインフレと金融引き締め

コロナ後に物価が高騰し、金融引き締めが行われた時から、リーマンショック以降ゼロ金利に慣れた経済が利上げに耐えられず景気後退に陥るという予想は繰り返しなされてきた。

上記のゾルタン・ポジャール氏の予想の通り、利上げによって政策金利は5%まで上がったが、景気後退はまだ来ていない。

それは何故なのか。利上げをしても景気後退は来ないのか。アメリカ経済は利上げを乗り切り、インフレは収まり、何の問題もなく株価も経済も浮上してゆくのか。

景気後退がまだ来ていないことについて、サマーズ氏は次のように単純明快な理由を挙げている。

それほど時間が掛かっているのは、金融引き締めをそれだけ遅く始めたからだ。

金融引き締めはもっと早く始めるべきだった。2021年、コロナ後の現金給付によってインフレは既に来ていたが、Fed(連邦準備制度)のパウエル議長はインフレの脅威を何の根拠もなく否定していた。

その間にインフレ率はかなり高いところまで上がってしまった。ウクライナ情勢前の話である。

金融引き締めと景気後退

サマーズ氏は金融引き締めが「遅かった」ので、景気後退も「遅い」と言っている。つまり景気後退は来るとサマーズ氏は思っている。

何故まだ来ないかと言えば、引き締めがまだ効いていないからである。

サマーズ氏は次のように説明している。

アメリカは引き締めを始めるのが遅かった上に効率的に動かなかった。中立金利が低いままだと間違って信じ、また現在の経済構造を考えずに、利上げが実体経済に及ぼす影響を過大評価していたからだ。

サマーズ氏は、以下の記事で利上げが今の経済構造に効きにくい理由を説明していた。

昔は建物や設備など何十年にもわたって利用するものに投資をすることが多かった。だからそのためのローンも期間が何十年と長く、期間が長ければ利上げの影響を受けやすい。

だが最近ではコンピュータやソフトウェアなど何十年ものローンを必要としないものに設備投資をすることが多い。ローンの期間が短くなっているので、利上げが効きにくいのだとサマーズ氏は指摘していた。

インフレ低下なら景気後退

つまり、サマーズ氏の意見では利上げはまだ単に効いていない。そして利上げが効いていないので、インフレ率も2%にはなっていないし、経済も減速していない。

9%まで上がったインフレ率が4%まで下がったのは、一時的に急上昇していたエネルギー価格などの要素が落ち着いただけで、基調的なインフレは変わっていない。

サマーズ氏は次のように述べている。

また、インフレに一時的な上下動があるとしても、経済活動に大きな減速がなければ基調的なインフレが止まることはないというのがインフレの基本構造であり、それが見逃されていた。

つまり、利上げはまだ効いていないのでインフレも経済成長率も下がっておらず、利上げが効き始めるとインフレも経済成長率も下がる。そしてインフレは下がるが経済成長率は維持されるような未来はない。それがサマーズ氏の意見である。

それは例えば以下の記事で説明したように、まだ収まっていないサービス価格のインフレは、歴史的には実体経済が減速し始めなければ減速しないことが根拠となるだろう。

サービスのインフレと実体経済の成長率は一蓮托生である。よってインフレと実体経済も一蓮托生である。

サマーズ氏は次のように纏めている。

経済活動に大きな減速はまだないので、インフレ率が目標を大きく超えていることには何の驚きもない。

Fedがインフレを目標まで下げたいというのなら、Fedは経済が減速するまで利上げを続けなければならなくなるだろう。

そして著名投資家たちの予想が実現する。

「景気後退にはなるが株高になる」という予想は良いだろう。だが「インフレは収まるが経済成長率は維持されるので株価が上がる」という予想は有り得ない。

そして「景気後退にはなるが株高になる」と考える人々は、景気後退になった場合の企業利益の予想とその根拠を示す必要があるだろう。