サマーズ氏: 中国がアメリカを追い抜く話はバブル期の日本神話と同じ

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで、次々に問題が表面化する中国経済を見てアメリカ人の視点から語っている。

引き続き崩壊する中国経済

中国経済の問題が表面化している。2021年の恒大集団に続いて今月には碧桂園もデフォルトを報じられている。

ちなみに延命装置に繋がれたまままだ生きている恒大集団の方は同じく今月、アメリカで破産法の適用申請をしながら「これは破産申請ではない」という意味不明の声明文を発している。円安で輸入物価の高騰をもたらしながら「インフレ目標を達成出来なかったことが残念」と言い残して去っていった日銀の黒田なにがしと中の人が同じなのだろう。

さて、中国の不動産バブルが、2021年から長い時間をかけて崩壊していっているようだ。香港ハンセン指数にはずっと表れていた問題なのだが、世界の金融市場はそれに今更気づいて慌てている。香港ハンセン指数は継続的に下落している。

サマーズ氏の中国経済への見方

さて、アメリカでは中国贔屓の金融関係者も多いなかで、一貫して中国経済に懐疑的だった人物がいる。サマーズ氏である。

彼は次のように述べている。

中国経済という新興勢力が減速を始めるということについてはもう何年も考えてきた。

新興勢力は大抵そうなる。古典的な例は1960年のロシアで、1980年にはアメリカを追い抜くと見なされていた。あるいは同じくアメリカを追い抜くと考えられていた1990年の日本だろう。

Bridgewaterのレイ・ダリオ氏などが、中国経済はいずれアメリカを追い越すという見方を支持する一方で、サマーズ氏はずっとその見方に懐疑的だった。

ダリオ氏も今すぐにそうなると言っているわけではないが、中国の不動産バブルは巨大であり、多かれ少なかれバブル崩壊後の日本経済のようになることは避けられなさそうだ。

その意味では今この議論はサマーズ氏に軍配が上がっていると言える。

これまで西洋では多くの人が中国に注目してきた。筆者の友人にも子供に中国語を学ばせている欧米人は少なくない。だがサマーズ氏はこれを逆手に取ってこう言っている。

そこでかなり便利な法則を導き出すことができる。アメリカの高校生が何か外国語をこぞって学ぶようになれば、それはその国の経済が減速する兆候だということだ。

サマーズ氏らしい逆張りである。娘に中国語を学ばせるためにわざわざシンガポールにまで移住したジム・ロジャーズ氏へのあてつけだろうか。だがそのロジャーズ氏も、近年は中国経済に弱気である。

中国経済の問題

中国経済はどのような問題に直面しているのだろうか。サマーズ氏は次のように説明している。

中国経済はいくつもの短期的困難に直面しようとしている。不動産への過剰な依存から来る金融市場の問題や、輸出市場の不振だ。

不動産の問題は地方政府が点数稼ぎのために不動産バブルでGDPを無理やり底上げしようとしたことに起因している。詳しくは以下の記事を参照してほしい。

また、サマーズ氏は次のように付け加えている。

そして更に根の深い本質的問題もある。去年中国人の親が持った子供の数が6年前に比べて半分になったことや、多くの富裕層がこぞってお金を国外に持ち出そうとしていることで、後者は新興市場にとって常に差し迫った困難の兆候だ。

人口問題は恐らく中国経済の抱える一番大きな問題である。

人口減少は本来経済にとって問題にならない。例えばスイスは人口は少ないが裕福な国である。だが政府債務や年金によって若者から年寄りへの資産の移転が行われている国において若者が減った場合、それは経済的な問題となる。

債務を増やした後に経済の規模を縮小すると、巨大な債務だけが残るからである。本当の問題はネズミ講そのものである年金制度や政府債務(中国の場合はシャドーバンキング)なのだが。

そして更に付け加えるならば、ダリオ氏が指摘していた中国共産党指導部の問題もある。今、経済が危機的状況にある中国のトップは、経済を理解していない人間が牛耳っている。この問題は筆者は個人的に非常に大きいと思っているので、以下の記事は読んでおいてもらいたい。中国が今後どうなるかを占う上で助けになるだろう。

中国経済の見通し

サマーズ氏は中国経済について次のように言う。

今後10年、中国経済の成長速度が主要国の平均以上になるかどうかにはまったく確信が持てない。そしてそうなればそれはこれまで40年われわれが住んでいたものとはまったく違う世界だ。

コロナ後の世界経済でパラダイムシフトは2つあったのかもしれない。まず1つ目はインフレと金利上昇である。デフレと低金利が株価を押し上げてきた時代とは異なる時代が既に始まっている。

そして恐らく投資家はもう1つのパラダイムシフトを直視すべきなのだろう。それは中国バブルの崩壊である。それは単に中国だけの問題ではなく、世界経済にも少なくない影響を及ぼすだろう。世界経済の多くの部分が中国の経済成長を前提に動いてきたからである。

だが中国はその後どうなるだろうか。日本経済のようになるのだろうか。

中国と日本の大きな違いが1つある。人口が多いので、1人当たりGDPが先進国の水準になるだけでアメリカ経済を追い越してしまうという計算はそれでも成り立つということ、そして事実、歴史を3000年遡れば、中国人の1人当たりGDPは、中国経済を世界首位に押し上げる程度の水準だったことが多いということである。

だがそれでも今はサマーズ氏が正しい。筆者が思い出すのは、あのジョージ・ソロス氏でさえ日本経済が世界トップになるという神話を信じていたことである。ソロス氏は日本のバブル崩壊直前、著書『ソロスの錬金術』で次のように書いていた。

この規模のバブルが爆発することなく軟着陸に成功した例は過去にない。当局は日本の債券市場の暴落を防ぐことはできなかったものの、株の暴落を阻止することはできるかもしれない。持続的な円高が当局に味方している。

もし当局が成功すれば、史上初の出来事になる。つまり、金融市場が社会の利益のために操作される新しい時代の幕開けとなる。

だがそうはならなかった。中国の指導部は当時の日本と同じような稚拙なバブル崩壊対策を行なっている。そして当時と同じように、むしろ状況を悪化させるだけだろう。

中国経済の行く先を見守りたい。


ソロスの錬金術