サマーズ氏、株価下落の原因になった長期金利上昇の継続を予想

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が、最近上昇して話題になっているアメリカの長期金利の今後の動向を予想している。

米国株下落と長期金利

長期金利が上がっている。2022年の株安をもたらした水準とほとんど同じ位置にある。

長期金利、つまり10年物国債の金利は株式と競合する。10年物国債を買えば(理論的に)無リスクで4.2%の金利が手に入るときに、投資家は本当に株式を買いたいと思うだろうか?

少なくとも金融市場はようやくそれを懸念し始めたようだ。それで株価が下がっているのである。

サマーズ氏の長期金利予想

だから長期金利が今後どうなるかということが、株式市場にとって重要である。サマーズ氏は長期金利について次のように述べている。

長期金利は3つの要素に依存している。期待インフレ率、実質金利、そして将来の短期金利よりも長期金利が高くなる分の期間プレミアムだ。

金利は期待インフレ率と実質金利の和というように分けることもあるが、サマーズ氏は実質金利を期間プレミアムと分離している。

期間プレミアムとは、仮に短期金利(例えば政策金利)が市場の予想通りに推移したとしても、10年間短期金利を得るよりは、長期金利を得る方が金利が高くなる場合の金利の差のことである。

つまり、インフレ率を省いて考えれば、長期金利は今後10年の短期金利の予想値の平均に期間プレミアムを足したものになる。

いずれにしても、これらの要素を足し合わせれば今後の長期金利が予想できる。まずインフレ率については次のように言っている。

インフレは下がってくるかもしれないが、今後10年でずっと2%になるほど下がれば、ほとんどの人はかなり驚くだろう。

だからサマーズ氏は仮に今後10年のインフレ率を年率2.5%と想定している。

あとは実質金利と期間プレミアムである。サマーズ氏は次のように計算する。

期間プレミアムは大体0.75%から1%だ。だからインフレ率を2.5%として、実質金利を1.5%とすれば高過ぎはしないだろうから、あとは期間プレミアムを歴史的水準より低い0.75%とすれば、長期金利は4.75%となる。

だが明らかに最終的には長期金利はそれよりも高くなるだろう。

現在の長期金利は4.24%だから、サマーズ氏は長期金利がここから更に0.5%以上上がることを予想しているのである。

サマーズ氏の計算は妥当か

読者はサマーズ氏の計算をどう思っただろうか。サマーズ氏が「高過ぎはしない」と言った実質金利1.5%に期間プレミアム0.75%を足せば2.25%となる。

これは、これまでの常識で考えればかなり高い。金利からインフレ率を引いたものの数字は、リーマンショック以後のゼロ金利政策によってもう10年以上ゼロ近辺で推移してきた。

だが、株式市場が金利高騰に驚いている理由はまさにそれかもしれない。リーマンショック後の相場の常識で考えれば、長期金利がそこまで上がるのは驚きである。だがサマーズ氏は次のように言う。

今経済はリーマンショック後とは違う時代のなかにあるようだ。今は雇用者が従業員を見つけるのに苦労する時代だ。今はグローバリズムによる価格競争の圧力がない時代だ。

労働市場は過熱し、ウクライナ情勢によって自由貿易が妨げられ、国際的な価格競争が働かなくなっている。

そしてすべての始まりはインフレである。

インフレ政策がついにインフレをもたらしてしまった時代においては、金利の常識が低金利の時代とは異なるのである。2020年から金利の常識は一変したと考えなければならない。サマーズ氏は次のように続ける。

高い長期金利はこのまま続くと予想している。賭けなければならないとすれば、金利の低下よりも上昇に賭けるだろう。

そして、最近の金利上昇前でさえ、アメリカの長期金利は米国株にとって耐えられない水準であったことを思い出しておきたい。無リスクで10年間4%の金利が得られる時に、冷静な人間が株式を買うだろうか。

サマーズ氏は次のように続ける。

そして市場は現実を受け入れなければならなくなると思う。

一方で、サマーズ氏はインフレ率の高止まりを高金利の原因と考えているものの、市場の期待インフレ率はむしろ下がっていることを指摘しておきたい。金利高騰の原因は別にあるのである。