レイ・ダリオ氏、珍しくもメディアをバイアスだらけと批判

世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏が自身のブログで現在のアメリカの政治情勢について語っている。

アメリカの政治と戦争

ダリオ氏は現在のアメリカの政治に危機感を感じている。アメリカではリベラル派と保守派が互いに相容れず、2016年の大統領選挙の時にはトランプ氏かヒラリー氏かで論争になって離婚した夫婦もあるほどにアメリカの政治は病んでいる。日本では政治の話で仲違いして離婚する夫婦などほとんど有り得ないだろう。

リベラル派を代表する与党民主党と、保守派を代表する野党共和党が互いに憎み合うような今の状況は、ダリオ氏によれば国家の発展と衰退の段階のうち内戦や戦争の直前に起きる状況である。

ダリオ氏はこれをウクライナ情勢前から警告していた。事実、2014年のマイダン革命時から続くアメリカのウクライナに対する干渉が現在のウクライナ情勢の少なくとも一因となったと認めるならば、ウクライナへの干渉に反対する共和党支持者と賛成する民主党支持者の軋轢の結果として実際に戦争が起こったのである。

だがアメリカの関わる戦争は徐々にアメリカに近づいている。戦争は儲かるがアメリカの民間人は犠牲にしたくないので、元々はベトナムや朝鮮やイラクなどアメリカとは縁遠い国で戦争をやるというのがこれまでのアメリカの流儀だった。ベトナムや朝鮮ならば荒れ地になっても構わないからである。だがそれが今回はヨーロッパで戦争が起こっている。

歴史上ほとんどの時間を戦争で過ごしている西洋人にとってもヨーロッパが荒れ地になることはショッキングらしい。彼らはヨーロッパで戦争が起こったことに驚き、ウクライナ戦争は西側のメディアによって大きく取り上げられているが、アラブやアフリカの諸国の人々は「アメリカがわれわれの国で戦争を起こしても対して憤らないのにウクライナだけが何故それほど重要なのか」という冷めた目で見ている。

自分を客観的に見られないことは日本を含む西側諸国の特徴である。そして自分に都合のよいストーリーを推し進めてゆく。それは世界大戦時に植民地支配の最後の目的地となった日本を含め、長い間非西側諸国を苦しめてきたが、ダリオ氏の言うように覇権国家にも寿命がある。そしてアメリカの寿命が近づくにつれ、アメリカの戦争はアメリカ本土に徐々に近づいてゆく。

それは良いことである。人々は「アメリカとロシアが戦争になったらどうするんだ」と言うが、それはアメリカが補助金漬けにしたウクライナ政府を使って無関係なウクライナ国民を対ロシア用の尖兵にしている状況よりもよほどまともである。アメリカが戦争をやりたければアメリカ人が戦えば良いのであって、ウクライナが戦争をするのはアメリカが戦争をするよりましだと思っているすべての人は、自分の政治的心情のためにウクライナの民間人を犠牲にしている。日本人は自分のウクライナへの感情を義憤だと思っているが、政治的心情とはそういうものである。

ダリオ氏の政治観

さて、このように戦争は確かにアメリカに近づいている。かつてはアジアや中東、今はヨーロッパ、いつかはアメリカ本土だろう。

だがダリオ氏はアメリカ人なのでそれを憂慮している。それでアメリカの政治の現状を知るために読者にいくつかの質問をし、それに自分でも答えている。

その1つがこれである。「メディアの人々についてどう思うか? メディアの人々の多くは正確な報道をしていると思うか?」。

ダリオ氏の答えはNoである。出来るだけ客観的で中立であろうとするダリオ氏が自分の政治観を表明するのは珍しい。彼はこう述べている。

質の高い客観的なジャーナリストも確かにいるのだが、彼らはレアな人種になってしまったようだ。

ダリオ氏は元々辛辣な見解の持ち主だと筆者は思っているのだが、たまにそれが露わになる。ダリオ氏も今の西洋の政治状況を見て、限界が来ているのではないか。

今回、ダリオ氏は遠慮なくメディアを批判している。

メディアがバイアスのない正確な報道をしていると思うだろうか? メディアの人々によって伝えられる話が客観的かどうか判断するために、報道を注意深く読んで、対象となっている人や組織に対してメディアの人々が自分の価値判断を押し付ける願望やバイアスを持っていないかどうかを考えてみてほしい。そうすればほとんどの報道にバイアスがかかっていると分かるだろう。

わたしの見方では、あるいはあなたの見方でもそうなると考えているが、多くの記者の興味は正確で中立的な報道をするよりも自分が攻撃したい人や組織に対する悪意あるゴシップを書くことに置かれている。

結論

これを読んで読者はどう思っただろうか。筆者の考えでは、そもそも中立な報道なるものが存在すると考えていること自体が非常に西洋人的な誤りである。

そんなものは存在しない。事実について報じたとしても、事実の一部を切り取って報じた時点でバイアスは存在している。だが多くの人は「中立で客観的な報道」なるものが存在するという中立で客観的ではない意見にとらわれ、西洋人の多くは自分の立場こそが(例えばアメリカの都合のためにウクライナ国民をロシアと殺しあわせているウクライナ政府を支持する立場こそが)「中立で正義である」と考えるのである。

日本人は馬鹿なのでこうした西洋の見方をそのまま丸呑みにしている。だが結局、自分にだけ都合の良い見解を永遠に都合よく信じ続けてくれるのは馬鹿だけであり、アメリカ人でも世界有数の頭脳であるダリオ氏やサマーズ氏のような人々は、そうしたバイアスから外れつつある。

だが彼らの懸念も虚しく、戦争はアメリカに近づいてゆくだろう。そしてそれは以下の記事で説明したように自業自得である。

世界はまともになりつつある。インフレ政策を支持した人々がインフレを食らったように、世の中は本当に上手く出来ている。