ガンドラック氏: 失業率上昇は社員がリモートでサボっていることに雇用者が気づき始めたせい

引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏のCNBCによるインタビューである。今回はガンドラック氏がアメリカの失業率上昇について語っている部分を取り上げたい。

失業率上昇とリモート勤務

2022年から続く金融引き締めにアメリカ経済は良く耐えていたが、遂に失業率が上がり始めている。

マクロ的に見ればその原因は金融引き締めが時間差で効き始めているということになるが、ガンドラック氏はもっとミクロ的な理由を挙げている。

彼は次のように述べている。

コロナでロックダウンがあり、在宅での勤務が始まった時、わたしはある仮説を立てた。社員のうち一定の割合が実はただサボっているだけだということに管理職や事業者が気付き始めるのではないかということだ。

ガンドラック氏は在宅勤務によって雇用者が社員のサボりに気付き始めるという仮説を立てている。彼は次のように説明している。

リモート勤務になればそれが見えやすくなるのではないかと考えた。

そしてそれを実際に目の当たりにすることがあった。Zoomか何かの会議だったと思うが、60人が参加していた。

会議が終わった時、わたしは接続を切らず、15分後にまだ接続している人がどれだけいるかを見てみるという実験をやってみた。

それは1時間10分の会議で、会議は終わって15分経った後もまだそこにいる人々がいた。この意味が分かるだろうか?

ガンドラック氏の言いたいことが分かるだろうか? 彼は次のように続ける。

この意味が分かるだろうか? その人は会議に参加していなかったということだ。あるいは少なくとも、会議全部に参加していたわけではなかったことは確かだ。

コロナによる環境の変化

人々はコロナによって急に環境の変化を強いられた。良かった点もある。

多くの人にとって勤務時間が無くなったことはプラスだろう。ただ、自分で働く場所を選べる人材は、元々満員電車による出勤などに悩まされていなかっただろうが。レイ・ダリオ氏のBridgewaterはウォール街ではなく、コネチカット州の森の中にある。ウォーレン・バフェット氏はオマハから動いていない。可能であれば、誰もニューヨークや東京でなど働きたくないのである。

まともな仕事をしていた人材にとってプラスがあった一方で、元々サボっていた人々には別の変化もある。慣れた環境では隠せていたサボりが、新たな環境では隠せなくなり、それが露わになり始める。それがガンドラック氏の指摘していることである。

コロナ後には多くの無駄が削減された。そもそも出社などしなくても良いのではないかという考えに、人々はコロナがなければ到達できなかった。

オフィスというものは実はコロナ前に必要とされていたほどには必要ではなかった。だからリモートの習慣はある程度根付きつつある。だが、まだ上がっていない失業率を見る限りまだ排除されていない無駄が残っている。人材である。

レイオフがトレンドになる

そもそも出社など必要ではなかった、それでも会社は回るというのは1つの真実である。だがこの事実には筆者が前々から思っていたもう1つの理由が存在する。

一定数の人々に限って言えば、必要ではなかったのはオフィスではなく社員の方ではないのか。居ても居なくてもどちらでも良い人が出社せずとも会社が回るのは当たり前である。

ガンドラック氏によれば、このコロナ後の無駄の排除が金融引き締めによる失業率の上昇開始とともにトレンドになりつつある。彼はこのように言う。

これは今起こっていることについて何かを示唆しているように感じる。今レイオフがトレンドになっている。Goldman Sachsや多くの会社がレイオフを行おうとしている。これはトレンドになりつつある。

5%がレイオフされるとしよう。それほど大きな数には聞こえない。ジャック・ウェルチ氏が経営していた頃のGEは毎年10%をレイオフしていた。従業員の質を高めるためだ。少しマキャベリ的で厳しいとも思ったが、気持ちは理解できる。

だが周りを見渡してみて、ある会社が5%レイオフしている、別の会社が15%レイオフしているとなれば、失業率が上がるのではないかと思えてくる。それがトレンドになりつつあるからだ。

だがアメリカはまだましな方だ。個人的には日本で人を雇うなど考えたくもない。解雇できないからだ。

私見では、解雇させない日本の法律は社員と経営者の両方にとって最悪の悪癖である。日本で賃金が上がらないのは解雇が出来ないからだ。経営者の観点から考えれば当たり前の話である。

また、転職が一般的でないからパワハラやセクハラが横行する。転職市場に流動性があれば、嫌な上司がいれば会社を変われば良いだけのことである。

解雇させない日本の法律で得をするのは、経営者が本来雇い続けたくないような生産性のない人材だけである。まともな人材にとっては、「経営者が解雇できるかどうか」ではなく「経営者が解雇したいかどうか」が問題になる。

何故日本の雇用関係はwin-winにならないのか。だが自分を搾取する政党を何十年も当選させ続ける日本人のことだから、何も変えられずに悪癖とともにこのまま死にゆくのだろう。

結論

アメリカの話に戻そう。今月発表された8月の失業率は、ガンドラック氏の言うようにターニングポイントである。

ガンドラック氏は次のように説明している。

毎月最初の金曜日に発表される失業率は、ここ数年なかった景気後退のサインを示唆している。グラフが1年の移動平均線を上回った。

もし36ヶ月移動平均線を上回るようなことがあれば、景気後退はかなり確実になる。だがわれわれの推計では今年の終わりにはそうなるだろう。

フリードリヒ・フォン・ハイエク氏の言うインフレ後の大量失業が始まろうとしている。

株式市場が織り込んでいるソフトランディングというのは、なかなか面白い冗談である。