引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏の自社動画配信である。
今回の記事ではガンドラック氏が国外からアメリカへの資金の動きについて論じている部分を紹介したい。
ドルからの資金流出
前回の記事でガンドラック氏は、引き続きゴールドの上昇を予想すると述べていた。アメリカの債務問題でドルからゴールドに資金が流出しているからである。
だが「ドルからゴールドへ」というと少し抽象的かもしれない。だからもう少し具体的に、株式市場の話にしよう。ガンドラック氏は次のように述べている。
米国株のパフォーマンスが他の国に比べ振るっていないが、その理由は何か? アメリカから資金が流出しているからだ。
米国株は、今年実は他の国に比べてパフォーマンスが良くない。例えば米国株と日本株とドイツ株の年始来のパフォーマンスを並べると次のようになっている。
- 米国株: +13.6%
- 日本株: +15.6%
- ドイツ株: +18.9%
何故こうなっているのか? ドイツ株の調子が良いのは、アメリカがウクライナから手を引こうとしているせいで、ヨーロッパ諸国がアメリカに頼らず、自国の防衛産業に投資しなければならなくなっているからだ。
ヨーロッパ諸国は、そのための資金を元々米国株や米国債への投資に回していた資金から捻出することになるだろう。その資金の動きが、今年ドイツ株が米国株より高パフォーマンスになっている一因である。
アメリカに投資されていた資金がそれぞれの国へ戻ってゆくというトレンドについては、ラッセル・ネイピア氏が詳しく解説している。
アメリカの対外純資産
この現象をグラフで視認できる分かりやすい方法がある。アメリカ人が国外に持っている資産から、外国人がアメリカに持っている資産を引いた対外純資産である。

マイナスになっており、その金額は崖から落ちるように増加してきた。
これはアメリカの資産(米国株や米国債)がどんどん外国人によって保有されたということであり、それはつまりドル建て資産が外国人に買われたということでもある。
アメリカからの資金流出
だからそれは、実際にはアメリカへの資金流入を示している。ガンドラック氏は次のように言っている。
2006年から2024年まで、短期的な逆転はあったが、それでもアメリカから国外に行った資金を差し引いて22兆ドルが国外からアメリカに流れ込んだ。
22兆ドルが徐々に金融市場に流れ込むとき、その市場は上がる。
ガンドラック氏は、米国株がこれまで他の国の株式市場に比べて大きく上がってきた理由の1つがそれだと言いたいのである。
ここで問題になるのが、前回の記事でガンドラック氏が述べていた通り、今年の相場のトレンドがドルからの資金流出だということである。
ガンドラック氏は、上のチャートで見たアメリカへの資金流入トレンドが逆転することを予想している。そしてその兆候こそが、米国株のパフォーマンスが悪化してきたことだと言っているのである。
ガンドラック氏は次のように続けている。
だが、もう始まっているかもしれないがその資金がアメリカから引き出されてゆくとき、それはもちろんドル資産が売られるということを意味する。そうすれば、米国株は他の国に更に遅れを取ることになるだろう。
ドルの下落相場
また、ガンドラック氏がアメリカからの資金流出の証拠として挙げているのが、ドル指数である。

このチャートについてガンドラック氏は次のように言っている。
2009年から2023年辺りまで、ドルは上昇してきたことが分かる。
だがドルはそこから下落している。
ドル指数を長期的に眺めると、何とリーマンショックの2008年付近を底として、そこから上昇している。リーマンショック後に量的緩和という大規模な金融緩和を始めたにもかかわらずである。
ドルの相場予想
金融緩和をしたにもかかわらずドルが上がったということが、アメリカの強みだった。同じことをした日本やイギリスでは、通貨の価値が急落した。
それはドルが基軸通貨であり、どれだけドルを印刷しても外国人がドルを買ってきたからである。
だがアメリカの債務問題や地政学の問題により、それが逆転し始めるとすればどうか?
ドルの長期的先行きについては、Bridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)で詳しく予想している。
日本語版はないのだが、英語が読める人はそちらも参考にしてもらいたい。